多くの女性にとって離婚時に問題となるのは苗字・姓の問題でしょう。昨今は男女平等の浸透や、生き方の多様性の容認によって、婚姻時に男性が女性の苗字を名乗る場合もあります。

しかし、以前として96%以上の女性は婚姻時に夫の苗字を名乗るという統計(厚生労働省平成28年度 「人口動態統計特殊報告」より)があります。婚姻時の夫婦別姓に関する関心など、苗字・姓に関する関心が高まりを見せています。本稿では、離婚を考える女性の96%が遭遇する、苗字の問題について説明をしていきます。

離婚後の苗字・姓はどうなるのか

離婚後の多くの女性の苗字は旧姓に戻る事になるでしょう。これは、民法によって「婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、<中略>離婚によって婚姻前の氏に復する。」と定められているからです。

この条文から分かるように、男性であっても、婚姻時に妻の苗字を名乗っていた場合には、普通は旧姓に戻ることになります。

ただし、婚氏続称制度というものがあって、婚姻中の苗字を離婚後も“法的に”名乗れる制度があります。この制度は、離婚日より三か月以内に役所に届け出をすることで、婚姻中の苗字(つまり多くは元旦那の苗字)を“法律上”の苗字として名乗ることができます。

しかし、あえて“法律上”としたとおり、離婚した際の苗字について、“通称”でよければなんとでも名乗ることができます。つまり、とくに法律上の苗字を意識しなければ、役所で手続きしなくても、会社で婚姻中の苗字を名乗ることができます。

苗字・姓を変えないメリット

苗字を変更しないメリットは、離婚しても周囲にその事実を伝えなければ、何事もなかったかのように装うことができる点にあります。また、小中学生のお子さんがいる場合に、学校で子供の苗字と母である自分の苗字が異なるという不都合を回避することができます。また、運転免許証や各種カード類、細かいところだと郵便局へ苗字の変更届出等をしなくて済むという点もメリットです。

苗字・姓を変えないデメリット

一方で、苗字を変更しないデメリットとしては、とりわけ離婚時に揉めていた場合、離婚後も夫の苗字を名乗り続けることの抵抗感を感じ続けるということがあります。ただし、この点については、一度、離婚後も元夫の苗字を名乗届出を出したとしても、その後3ヵ月以内であれば戸籍法の定めるところにより、家庭裁判所の許可を得ることで旧姓に戻すことができます。その他のデメリットとしては、離婚時にご両親が良い顔をしない可能性がある点と、再婚時に相手の男性が良い顔をしない可能性がある点です。

苗字・姓を変えるメリット

苗字を変えるメリットは、旧姓に帰ることによって自分をリセットすることが出来る点です。また、再婚時に相手の男性に意図せず不信感をあたえてしまう危険を回避できる点にあるでしょう。また、女性が苗字を旧姓に戻すことは、古い考え方かもしれませんが、ご両親にとっては「一度家を出た娘が帰ってきた」という思いを生じさせやすくなり、女性にとっての安らぎの確保の助けになるかもしれません。

苗字・姓を変えるデメリット

逆に苗字を変更するデメリットとしては、苗字・姓を変えない場合と比べて、カード類や免許証の書換え等の手間が生じます。

また、離婚時に未成年の子がいた場合、母が親権者となる場合を多く見かけますが、この際の子の苗字の問題と戸籍の問題が生じるというデメリットがあります。子の苗字の問題と戸籍の問題について簡単にふれると、法律上、子の苗字と離婚時の親の苗字とは別の問題で、子が父又は母と苗字が異なった場合には、家庭裁判所の許可を得て変更の手続きをする必要があります。つまり、親権者が母の場合、母の苗字が旧姓になっても、自動的にその子の苗字が母の苗字に変更されるわけではないということです。

同種の問題としては、子の戸籍の問題があります。現在の戸籍の仕組みは、親と子という家族単位で一つの戸籍を形成しています。ここで、「親と子」について戸籍法上の考え方は、「同姓」である必要があります。つまり子と親が別々の苗字の場合、同じ戸籍に入ることができず、多くの場合元夫の戸籍にその子が入り続けるという不都合が生じることがあります。

また、例えば妻が不動産を所有している場合、離婚後の生活資金を得ようとその不動産を売却するとします。この場合、妻が離婚によって旧姓に戻ると、登記簿上の姓名と一致しないため、一定の変更手続きが必要となり、余計な費用がかかるという不都合があります。

苗字をそのまま変更しない場合とは

苗字をそのまま変更しない場合とは、仕事等の関係で婚姻時の苗字をそのまま名乗る方が都合が良い場合などです。また、「離婚したことを他人バレしたくない」という場合にも敢えて苗字をそのままにするという場合もあります。

離婚しても旦那の姓を名乗る(変わらない)理由とは

未成年の子がいる場合など、親権が母にあっても、学校での子の事を考えて敢えて、元旦那の姓を名乗る場合があります。前述のとおり、母が苗字を変えてしまうと、親権を自分が取得しても、子を自分の戸籍に移すためには、家庭裁判所で許可を得るという複雑な手続きが必要となります。このような不都合を回避するために、離婚をしても元旦那の姓を名乗り、苗字を変えない(変わらない)場合があります。

なぜ苗字を変更しないのか

苗字の変更の問題は、本稿の内容とは少々ズレますが、夫婦別姓の問題と根幹が通じる部分があります。つまり、苗字を変更することで、これまで説明してきたような、さまざまな手続きやリスクが伴うということがあります。また、場合によっては、ある程度長期に婚姻時の苗字を名乗っていた場合などは、それまでの自分のアイデンティティーを否定してしまう等考えてしまい、離婚時の苗字変更に消極的になる場合等があります。

離婚後しても苗字をそのままにする手続きとは

離婚後に婚姻中の苗字(例:元旦那の苗字)を名乗りたい場合には、離婚日より3ヵ月以内に役所に届け出を行うことによって、苗字を変更しないでいることができます。

離婚して苗字を変える場合とは

離婚して苗字を変える場合は、やはり心理的な部分が大きいのではないでしょうか。

民法上は、離婚時の苗字については、事実上、旧姓にもどすのか、そのまま婚姻中の苗字を名乗るかを自由に決定できるようになっています。また、あとにより詳しく説明しますが、現在は女性の社会進出が進んでいることから、女性の苗字について、「仕事上の苗字」についてかなり広く受け入れられる傾向にあります。具体的には、婚姻しても従前の苗字を名乗り続けたり、また、逆に離婚後であっても婚姻期間中の苗字を名乗る場合もあります。このことは、特に法律上の手続ではなく、あくまでも“業務上の便宜”としているため、多くは特段法的な手続きを取っていない場合が多いように感じます。

また、近時の離婚後の女性の苗字については、女性のキャリア形成にも少なからず影響を与える問題です。よって、女性がどの苗字を選択するのかは、その女性の人生観や仕事観、あるいはその後のキャリアを有利にする為等様々な要因で選択されています。

離婚した場合の学校での子供の苗字

離婚した場合の多くは、母がその親権を取得する場合が多いでしょう。

しかし、ここでの問題は、「子の苗字はどうなるのか?」についてです。例えば、離婚後の女性(母)が離婚時の苗字をそのまま名乗る場合(婚氏続称の場合)はどうでしょうか。この場合には、見た目上は、母と子の苗字が異ならないことから、学校でPTAでの集まりや、自分の苗字を書く場面になっても、離婚に気づかれない場合があるでしょう。また、子供たちが学校で無邪気に子供と母の苗字の違いを指摘し、子供が精神的に傷つくことを避けることが出来るかもしれません。一方で、苗字を変更した場合には、とくに子供の学校生活においては不都合が多い場合があるかもしれません。

ただし、いずれにしても、子供の戸籍の問題は生じてしまうことになります。というのも、母が旧姓を名乗る場合も、婚姻中の苗字を名乗る場合も、“離婚”することによって法律的には「子と異なる姓」を持つことになる結果、子を自分の戸籍に入籍させようとする場合には、必ず家庭裁判所での手続きが必要となるからです。

離婚しても子供がいない場合の苗字

離婚時にとくに子供がいない場合や、いたとしても既に成人をして独立している場合などは、女性はその苗字について自由に選択していることが多いように感じます。

前述のとおり、法律上は、離婚時の女性が従前の苗字を名乗るのか、旧姓(婚姻前の苗字)を名乗るのかは完全に自由です。しかし、“子供”という存在がある場合には、その子に親としての一定の配慮が必要となってくるため、自由に選択するわけには行きません。

一般的な傾向を言うと、やはり、離婚した女性の多くは、離婚後にそのご両親の戸籍に戻る場合(これを「復籍」と言います)が多く、つまり、旧姓に戻す場合が多いのが一般的です。なお、子どもがいない場合には、この傾向は現在でもかなり高い傾向にあると考えます。

苗字を変えないで再婚するとどうなるか

苗字を変更しないで、つまり、離婚時の苗字をそのまま名乗っている場合(婚氏続称)、再婚するときは、通常の婚姻の場合と手続的に異なることはありません。しかし、再婚時に必ず取り寄せる必要があるのが自分の戸籍謄本ですので、再婚相手が苗字の部分で何かしらのマイナスの感情を抱くことがあるかもしれません。なお、この再婚の際に自分に子がいた場合ですが、子の苗字は母が婚姻で新たに苗字を改めた場合には、家庭裁判所の許可を得ずに届け出によって苗字を両親に合わせることができます。

離婚の回数と苗字の変更について

一般に離婚の回数が多いからと言って、苗字の変更が妨げられるものではありません。例えば、苗字がA→<婚姻>B→<離婚>Aとなった者が、Cという苗字に変更して、離婚した場合の苗字はAまたはCを名乗ることができます。では、Cと離婚した後に更にDと婚姻した場合にはどうなるかというと、Dへの苗字の変更が可能です。その理由は、法律によって「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定められているからです。つまり、何回離婚したとしても、婚姻すれば夫婦は同一姓でないといけないので、変更することができます。

離婚後に旦那の苗字を選択した場合旧姓に戻せないとは?

離婚後に旦那の苗字を続称する場合、基本的には旧姓に戻すことはできなくなります。ただし、戸籍法の定めるところにより3ヵ月以内であれば、家庭裁判所の許可を得ることによって、例外的に旧姓に苗字を戻す手続をとることができます。このことは、離婚時には心にゆとりがあることは少なく、冷静に考える余裕がなかったことに配慮をして、自分を決定づける苗字について、人格権の一つとして一定の配慮を払っていることにあります。

また、これとは別に戸籍法の観点から見ても、離婚時に旧姓に戻す場合と婚氏続称(離婚時の苗字を名乗ること)とでは取扱いが異なります。

具体的には、旧姓に戻る場合には特に届け出を行わない場合には、従前入っていた両親の戸籍に自分の籍がもどることになります(このことを「復籍」と呼ぶことは既にふれました)。一方で、婚氏続称を選択した場合には、新たな戸籍が編成されることとなり、従前の親の戸籍に入ることはありません。

現在の戸籍事務の扱いは、親と子で戸籍を編成し、その戸籍に記載されている者は同一の姓である必要があるためです。そのため、婚氏続称により名字が異なることになった場合、その者について新しい戸籍が編成されることになります。なお、戸籍法上は成人した者であれば、届出によって自分の戸籍を新たに編成することができます。しかし、この制度を利用している方は、実務上はかなり少ない状況となっています。

離婚後の仕事の苗字の問題について

これまで何度か説明をしてきましたが、離婚後の仕事の苗字については近年はかなり柔軟な対応がされています。

例えば、士業の登録(弁護士、税理士、公認会計士、司法書士)の際、「職名」の登録によって、婚姻前の旧姓を登録することもできますし、離婚時に婚姻中の苗字を届け出ることもできます。また、会社の登記についても、関係法令の改正によって、旧姓を届け出ることもできるようになってきています。また、法的には苗字が変更されていたとしても、会社で仕事上名乗る苗字については、会社の理解がある場合には、従前のものを名乗ることができます。このように、仕事における苗字については、近年、柔軟に対応されるように変化し、両性の平等の実現と女性の社会進出を後押ししています。

養子縁組している場合の離婚による苗字とは

例えば、養子縁組している場合の苗字はどうなるのでしょうか。この場合は、多くの場合、婚姻時に夫の氏を苗字とするように役所に届け出るので、養子縁組を行っても、苗字は変更しません。一方で、離婚した場合に離婚時の苗字を名乗らない場合(婚氏続称しない場合)は、養親の苗字に変更します。この場合は、一般的には養親の戸籍に入籍することとなります。民法の考え方として、「親と子は同一の氏を名乗るべきだ」という考え方があります。この考え方により、単身者の場合には養子縁組の場合はその養親の戸籍に入り、苗字が養親の苗字に変更されることとなります。

まとめ

両性の平等と女性の社会進出にともなって、とくに離婚時の女性の苗字・姓について問題となることが多くなりました。また、離婚する夫婦には子供がいるケースが少なからずあり、その子が未成熟な場合が多いことから、苗字の問題は非常に微妙な問題となっています。

また、現在の戸籍制度は民法の規定と併せて運用することによって、男女平等としながらも、女性側に不利な規定のされ方となっています。例えば、女性が親権を取得した場合の子の戸籍についてですが、結局裁判手続をとらないと、自分の戸籍に子の戸籍を移すことができません。こうした問題は今後解決されていくことと思いますが、本稿をご一読いただき、少しでも制度のご理解の助けになれば幸いです。

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