法律事務所には日々、次のような相談が寄せられています。

「トラブルの相手方から害意をほのめかす言葉を言われているが、脅迫罪になる言葉なのか判断がつきません

たしかに、「殺すぞ」「殴るぞ」「家に火をつけるぞ」という言葉であれば、それが脅迫罪に該当することは想像がつきやすいでしょう。しかし、そういった明確な台詞ではない場合、果たして脅迫罪になる言葉なのかどうか迷うのは当然です。

そこでここでは、どこからが脅迫罪になる言葉なのか、実際に起きた事件も交えて、脅迫や恐喝事案に詳しい弁護士がわかりやすく丁寧に解説していきます。

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脅迫罪とは

脅迫罪とは、相手が畏怖(怖がること)するような言動をすれば成立する犯罪です。刑法222条に書かれていますので条文を見てみましょう。

脅迫罪(刑法222条)
1.生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2.親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

相手が怖がらなくても成立する

重要なポイントとして、脅迫罪は、被害者が怖がらなくても成立することです。

脅迫罪が成立するには「害悪の告知」が必要とされています。そしてこの害悪の告知は、被害者が怖がったかどうかではなく、世間一般的にみて恐怖を抱くだろうと客観的に認められることが必要とされています。

例えば、成人男性が小学生の子供に対して、「ぶん殴る」と言えば、一般的客観的にみて小学生の子供は恐怖を抱くと考えられるため、脅迫罪は成立します。

それとは逆に、小学生の子供が成人男性に対し同じく「ぶん殴る」と言ったとしましょう。その成人男性は非常に怖がりなため、小学生の台詞に怯えて震えたとします。しかしこの場合、一般的客観的にみて成人男性が小学生にこのような言葉で恐怖を抱くとは考えにくいでしょう。そのため脅迫罪は成立しないことになります。

なにに対して害悪の告知をすれば成立する?

害悪の告知とは、読んで字のごとく、害を与えるような悪いことをすると相手に告げることを意味します。では具体的に「なにに対して」危害を加えるようなことを言えば、脅迫罪が成立する言葉となるのでしょうか。次のようなケースでは脅迫罪に該当する可能性があるでしょう。

生命に対して

「お前を殺してやる」「家族全員あの世に送ってやる」「子供を火あぶりにして殺害するぞ」「海に沈めて水死させてやる」など

身体に対して

「指をへし折ってやる」「殴り倒してやる」「痛い目にあわせてやる」「お前の奥さんの爪を剥いでやる」など

自由に対して

「部屋に鍵をかけて出られなくしてやる」「子供を誘拐して監禁してやる」「ここから帰れると思うなよ」など

名誉に対して

「性行為の画像をネットにばら撒いてやる」「マスコミに全部ばらしてやる」「不倫していることを職場の連中に話してやる」など

財産に対して

「車のタイヤをパンクさせてやる」「飼い猫を殺してやる」「家に灯油撒いて火をつけてやる」など

誰を脅迫すれば成立する?

本人まはたその親族を脅せば成立します

そのため、「お前の彼女を刺し殺してやる」「友達が恥をかく秘密を世間に公表してやる」といった、恋人や友人を害する言葉は脅迫罪になりません

恋人や友人が含まれていないのを疑問に思う方もいるとは思いますが、恋人や友人の定義は曖昧です。恋人、恋人以上友達未満、親友、少し仲の良い友人、仲のいい知人、といった風に、明確な線引きができません。つまり、脅迫罪の対象となる人が曖昧だと犯罪の成否を判断することが難しくなることから対象となる人を明白にしているのです。

また、対象となるのは、自然人である”人”であって、”法人”は対象外です。

ただし、法人に対する脅迫言動が、その告知を受けた法人の代表者や代理人等の生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加える告知であると判断できる場合には、その個人に対する脅迫罪は成立するとされています。「会社を爆破するぞ」「誹謗中傷のデマ情報をネットに流して会社を倒産させてやる」といった台詞などがその例です。

脅迫の手段は?

直接的に顔を合わせて害悪を告知するほかに、電話・メール・LINE・SNS(メッセージ機能)・FAXの場合も脅迫罪になり得ます

また、直接的でない、たとえば、ブログや掲示板、SNSで「○○を処刑する」といった書き込みをするケースも脅迫罪が成立する可能性があります。本人が直接目にしたり、第三者経由でその書き込み内容が伝わることも十分に考えられるからです。

判例で、加害者が脅迫状を人目につきやすい場所に置いておき、それを手にした第三者が被害者に脅迫状を渡した場合に脅迫罪が成立するとしたものがあります。

さらに、言葉でなくとも態度で示す場合も脅迫罪になることもあります。例えば、無言でナイフを突きつける、殴る素振りを見せる等の行為がそれに該当します。

また、こういった明確な態度でなくとも、客観的にみて、人が恐怖を感じるであろうと思われる行為も該当する可能性があります。例えば、著名人に堆肥を代引きで400キロ送りつける事件がかつてありましたが、加害者に脅迫の故意があれば脅迫罪が成立する可能性はあるでしょう。

どこからが脅迫罪になる言葉なのか

ここでは、どこからが脅迫罪になる言葉なのかを、実際の事件も交えてもう少し掘り下げていきたいと思います。ただし、ここで「脅迫になる・ならない」の表現は、状況に応じて変わってきますので、”一般的に”脅迫罪が成立するか・しないかという判断ですのでご了承ください。

「覚悟しておけ、地獄に送る」

東京都内にある由緒ある神社で、宮司やその親族の殺人事件があったことは記憶に新しいかもしれません。原因は根深い恨みとされていますが、当事者の一方は「覚悟しておけ」「今年中に決着をつける」「地獄に送る」などという言葉が書かれた封書を送りつけ、脅迫罪で逮捕されています

直接的な害悪の告知があるとは言い難いうえ、「地獄」というのは架空の概念とも言えますが、一般人がこの状況でこういった手紙を受け取った場合、やはり生命や身体に害悪の告知がなされていると感じ、脅迫に恐怖を感じるのが一般的だと考えられます。

一方、似たような言葉に「天罰が下るぞ」といったような言葉があります。天罰の解釈は状況によっても異なりますが、「天災などによって天罰が下る」というような意味合いで使用されているのであれば脅迫罪にはあたりません。この場合は、加害者が加害行為を加えることができないからです。

参考:富岡八幡宮斬殺 賽銭泥棒、ホスト、不敬事件…放蕩の裏側

「報復措置として家族に危害が及ぶかも」

ツイッターは匿名性が高いことや、著名人が多く利用していることから、ツイッターを通じた強迫行為は後を絶ちません。著名人に対して「報復措置として家族に危害が及ぶかも」という言葉を書き込み、脅迫ではと感じた閲覧者が110番するというケースもありました。

この場合、親族に対する害悪の告知がなされているため、脅迫罪が成立する案件といえます。似たようなケースに「子供が大変なことになるよ」などの発言も、脅迫罪にあたるといえます。

参考:杉田水脈衆院議員にツイッターで脅迫文 警視庁が捜査

「事故に気をつけてね」

通常の人間関係であれば、「事故に気をつけてね」というのは普通の挨拶にも思えます。しかし、トラブルになっている関係の場合は、同じ言葉でも違う解釈が可能になってしまいます。

この言葉だけでは、生命や身体への害悪の告知があると判断することは難しいですが、前後の状況を総合したとき、加害者が「事故を装って加害行為をする」とほのめかしていると判断されるようなことがあれば、脅迫罪に当たる可能性は高まります

「今度やったらこのことをネットにばらまくぞ」

このケースでは、最初に相手が加害行為を行っていますが、それに対して「このことをネットでばらまくぞ」と応戦しています。脅迫したという事実をネット上で拡散することによって、その人の評価が下がり、名誉が傷つくことが考えられます。

そのため、この言葉は「名誉に対する害悪の告知」であるといえ、脅迫罪に当たる可能性があります。また、このような名誉を傷つける行為は、脅迫罪の他に「名誉毀損罪」が成立する可能性があります。

「やくざに復讐依頼をしました。夜道には気をつけて」

「事故に気をつけて」という言葉と類似しますが、人間関係のトラブルが起きているとき、加害者からこのような言動があった場合、一般人がそれを聞いたら「脅迫だ」と恐怖を感じることは容易に想像ができます。

また、「ヤクザに依頼して被害者に害を加えるつもりだ」ということを伝えていると捉えることができるため、生命や身体に対する害悪の告知があるといっていいでしょう。このケースも脅迫罪が成立します

「金を払わないならお前の女をソープに沈めるぞ」

風俗を利用して、風俗店の店員などから脅迫や恐喝を受けるトラブルケースは、弁護士への相談でも多く見られます。自分に対する危害ではなく、交際相手や家族に対する害悪の告知も、脅迫の常套手段です。

「お前の女」という言葉は交際相手を指していると思われますが、交際相手に危害を加えるというようなケースは脅迫罪には該当しません脅迫罪の対象となるのは、自分、または親族に対する害悪の告知が要件となっているからです。交際相手や友人に対する害悪の告知は、脅迫罪の要件を満たしません。

「会社にばらす」

脅迫の常套句のひとつが、「会社にバラす」という発言です。不倫をしている事実、横領をしている事実などを加害者が掴んで「事実を会社にバラすぞ。バラされたくなければ金をよこせ」などと要求してくるケースです。

脅迫罪は成立するためには、生命や身体、名誉や財産に対して害を加えるという意図を加害者が持っていること、そして一般的にその害悪の告知によって恐怖を感じるのが相当であることが必要です。

「会社にバラす」と告知することは、名誉に対して害悪を告知することに該当するため、脅迫罪が成立する可能性が高い発言です。

脅迫罪は基本的に、適法な権利の行使の場合は成立しません。例えば「警察を呼ぶ」「裁判所に訴える」「弁護士に相談する」といった言動は、基本的には脅迫罪にはあたりません

「会社にバラす」という言動も同様で、「被害者の違法な行為を会社に伝えることで被害者の行為を改めさせたい」という動機があっての発言ならば、脅迫罪には該当しない可能性があります。

「ヤクザに債権譲渡する」

知人にお金を借りているが、なかなか返すことができずにいる、というような場合、債権者である知人から強い督促を受けることもあります。また、債権者とトラブルになって険悪な関係になることもあります。

なかなか返済してもらえないとなった債権者が取る手段としては、弁護士を間に入れて督促を強めるなどの方法がありますが、自分で弁護士費用をかけて取り立てる手間やコストを嫌い、債権を第三者に譲渡する債権者もいます。

全く知らない人が債権者になることに不安を覚える債務者も少なくないため、「返さないなら他の人に債権譲渡する」という言動は、督促に役立つこともあります。その中で、「ヤクザに債権譲渡する」という言動をされた場合、脅迫罪に当たるのでしょうか?

ヤクザに債権を譲渡する、という言葉は具体的に生命や財産などに対して害悪を告知しているとは言えないものの、一般的な感覚を持っている人なら、凄惨な取り立てが始まるのでは、身に危険が及ぶのではなどと恐怖を感じるのではないでしょうか。そのため、「ヤクザに債権を譲渡する」という言動は脅迫罪に該当すると考えられます

「別れるなら死んでやる」

男女問題のもつれでは、「別れるならこの場で死んでやる」などといってなんとか相手を引きとめようとすることがあります。一見脅迫にも見えますが、この場合は脅迫罪とはなりません

別れた相手が自殺したとしても自分に害が及ぶことはなく、脅迫罪の要件となる、身体や生命に対する害悪の告知がなされているとは言えないためです。しかし、「別れるならあなたを殺して私も死ぬ」というような言葉の場合は、生命に対して害悪の告知をしていると言えるため、脅迫罪にあたります。

「村八分にする」

これはかなり古い判例ですが、昔は集落において「村八分」「絶交」という社会的な制裁が行われていました。交通手段も発達していない状況で、集落の中で絶交や村八分にあってしまうというのは、実生活に多大な影響を及ぼします。

判例では、村八分にするという通告が脅迫罪を成立させるための「害悪の告知」に該当する言葉であると判断しました。

参考:村八分の通告が脅迫罪に該当した判例

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