中絶で慰謝料が認められるケース4つ。相場と請求方法を弁護士が解説

「なぜ女ばかり苦しまなくてはならないのか…」
中絶を経験した女性の口からよく語られる言葉です。

妊娠中絶は女性にとって肉体的・精神的にかなりの負担を強いるものですので当然の感情でしょう。
そして、男性にも同じ苦しみを味わってもらうことはできないにせよ、何らかの責任をとってもらいたいというのが自然な流れです。

日本では、刑事事件ではない限り、責任の取り方としては金銭賠償が原則です。
そこでここでは、中絶の慰謝料請求が可能なケースや、相場、慰謝料以外に請求できる費用など、妊娠中絶に関する”お金”の話について、弁護士がわかりやすく丁寧に解説していきます。

中絶をしても慰謝料請求できないのが一般的

慰謝料とは、相手方の不法行為によって受けた精神的損害に対する賠償金のことです。

慰謝料請求が認められるには、①権利または法律上保護される利益を、故意(わざと)または過失によって相手方が侵害し(権利侵害)②それにより損害が生じ③権利侵害と損害との間に因果関係があることが必要とされています。

では、中絶がこれらの要件を満たすかといえば、じつは”権利侵害”の時点で、慰謝料請求の要件が満たされていません

パートナーとの間の性行為は通常はお互いの同意のもとに行われます。そして、それにより妊娠し、中絶という選択肢をとる場合も、強制ではなく任意で行われるのが一般的です。

そのため、女性が中絶手術で身体的・精神的苦痛を受けたとしても、妊娠・中絶が同意にもとづくものである以上権利侵害があったとはいえません。よって、男性への慰謝料請求は一般的には認められません。

中絶で慰謝料が認められるケース

繰り返しとなりますが、一般的には、性行為による妊娠や中絶手術については女性の同意があるため権利侵害がなく、慰謝料は請求できません。

しかし逆に、権利侵害があれば、中絶による慰謝料を請求できることになります。4つのケースを見ていきましょう。

①強姦されたケース

強姦(罪名:強制性交等罪)は性行為の時点で女性の同意がなく、女性の性的自由への権利侵害が生じています。

②強要されたケース

脅されたり暴力を振るわれて中絶を強要された場合には、女性の意思決定の自由への侵害行為となります。

③避妊をしていると嘘をついたケース

「コンドームをつけた」と男性に言われたが、じつは避妊はしておらず、射精されてしまって妊娠中絶に至た場合には、妊娠についての女性の自己決定権への権利侵害となります。

④妊娠や中絶に対する男性の配慮義務が欠けていたケース

かつては、上記3つのような特殊なケースを除いて、自由意志にもとづいて性交渉および中絶をした場合には、慰謝料が認められることはありませんでした。

しかし、平成21年10月15日に東京高等裁判所、同意があったケースでも慰謝料請求を認める判決をくだしました。この判例について見てみましょう。

判例の概要

結婚相談所で出会い、交際を開始した男女が肉体関係をもち、交際解消後に女性の妊娠が発覚しました。しかし男性は話し合いをすることもせず、子供を産むか堕ろすかの判断を女性に一方的にゆだねるだけであった事案

判決

慰謝料200万円の二分の一である100万円を男性(被告)が女性(原告)に支払うよう命じました。

慰謝料請求を認めた理由と今後

裁判所は、性行為の結果生じる妊娠や中絶は女性に精神的・肉体的・経済的負担を与えるもであるから、共同行為である性行為を行ったもう一方の男性においても、それらの負担を軽減・解消する義務があるとしています。

そして、その義務を履行しなかった場合には不法行為になるとし、男性に慰謝料の支払を命じました。

この判例により、同意ある性交渉と中絶であったとしても、男性が出産や中絶について女性との話し合いを避けたり、女性の負担を軽減させる行為をしない場合には、今後、慰謝料が認められる可能性がでてきました。

中絶の慰謝料相場は?

上記の、平成21年10月15日の東京高裁判例では、慰謝料額が100万円と認定されました。

しかし、ホステスの女性を妊娠させた男性客が女性との話し合いに応じず、最終的には、「俺はなにもしれやれない」「勝手にしてくれ」と言い放ち、中絶同意書へのサインもしなかった事案につき、慰謝料は20万円しか認められなかった判例(東京地裁 平成23年2月23日判決)もあります。

一方、交際していた女性が妊娠したが、「産んでも認知はしない」と冷たく突き放した男性に、約160万円の慰謝料の支払を命じた判例(東京地裁 平成27年7月31日判決)もあります。

権利侵害の程度や裁判官の心証により左右されますので明確には言えませんが、性交渉や中絶が任意にもとづくものであった場合には数十万円~200万円以内が、中絶の慰謝料相場とも考えられます。

なお、強姦(レイプ)によって妊娠し、中絶せざるを得なかった場合の慰謝料相場ですが、中絶による慰謝料というよりは強姦されたことによる精神的な傷に対する慰謝料の側面が強いでしょう。

ただし、強姦のケースでは女性が裁判沙汰にして世間の好奇の目に晒されることを避ける傾向が強いため、慰謝料も示談によって支払われることが多いのが実情です。その際の示談金(慰謝料)の額としては20万円程度~1000万円程度とかなりの幅があります。犯行の悪質性や男性の資力によって大きく左右される形になります。

慰謝料以外で請求できる費用はある?

中絶費用

権利侵害がなかった場合、つまりは、性交渉も中絶も同意があって行われたケースでは、女性は男性に対して中絶費用の半額を請求できます。もちろん、任意であれば男性が全額負担しても構いません。

一方、権利侵害があった場合は、権利侵害の悪質性によって、男性に請求できる中絶費用の割合は変わってきます。

例えば、強姦されて妊娠したようなケースでは中絶費用の全額が認められますが、上記で紹介した最高裁判例のようなケースでは、男性は中絶費用の半額を負担すればよいと判示されています。

なお、中絶費用の相場の目安は以下となります。

  • 初期中絶(妊娠11週目まで):7万円~15万円
  • 中期中絶(妊娠12週目~21週目まで):20~50万円

また、基本的には人工妊娠中絶は保険適用されません。中期中絶の場合は、死産届を出して埋葬もしなくてはなりませんのでさらに埋葬費用がかかります。

その他の費用

  • 妊娠検査の費用
  • 中絶前や後の診察費用
  • 診察に行く際の交通費
  • 中絶手術で入院が必要だったときの入院費
  • 妊娠や中絶手術の影響で仕事を休んだときの休業損害
  • 後遺症が生じたときの慰謝料や損害賠償

これらの費用等は、あくまでも、妊娠や中絶をするに至った経緯に権利侵害があった場合で、かつ、その権利侵害と相当因果関係(社会一般的にみて相当と考えられる原因と結果の関係)にある範囲で請求が認められます。

相当因果関係とは、「社会一般的にみて、この権利侵害による性交渉(または中絶)がなければ、このような結果(後遺症など)が生じなかったであろう」という関係のことです。

妊娠・中絶により生じた様々な損害の全てを男性に請求できるものではありませんので、「これは請求可能かな?」と悩んだら弁護士に相談しましょう。

中絶費用と慰謝料の請求方法は?

話し合いのうえ示談

示談とは、裁判外での和解契約です。和解とは、争っている当事者がお互いに譲歩して争いをやめることを約束することです。

妊娠トラブルにあてはめると、男性が中絶費用や慰謝料を女性に支払う代わりに、女性は男性を訴えたり、今後男性に連絡をとったりしないと約束することです。

示談はお互いの話し合いでその内容を決められますので、中絶費用の男女の負担割合や慰謝料の額まで細かく決めることも可能です。

ただし、分割払いのケースでは、男性が支払を怠ることも予想されますので、示談書を公正証書にしておくべきでしょう。

公正証書とは、公証人によって作成される公文書で、これに強制執行認諾条項(もし支払の履行がされなかったら強制執行されても異議はないと認める条項)を入れておけば、中絶費用や慰謝料の支払が遅れたりした場合に、すぐさま男性の預金や給料などに差し押さえをして回収が図れます

内容証明郵便の送付

話し合いで示談を締結できればそれに越したことはないのですが、そもそも男性が無視する・連絡を断つなど、話し合いの余地がないこともあります。

その場合はまず、内容証明を送るのが一般的です。

内容証明とは、いつ・誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送付したのかを日本郵便が証明してくれる文書です。

この文書自体に法的な効力は一切ありませんが、文書に、「中絶費用や慰謝料を支払わないなら裁判を起こす」といった文言を入れることで男性を心理的に圧迫し、話し合いや支払を促す効果があります

民事調停や裁判

話し合いや内容証明の送付にも無反応なケースでは、民事調停を申し立てるのも一つの方法です。

民事調停とは、裁判外紛争手続きの一種で、裁判官と民事調停委員(弁護士や専門的知識を有する一般人)を交えて話し合いで争いを解決する手続きです。

法律知識がなくても裁判所の窓口で簡単に手続きすることができ、訴訟とくらべて手数料も安いというメリットがありますが相手が調停への呼び出しを無視することもあります。

その場合は、訴訟(裁判)を提起するしかありません。訴訟とは、互いの言い分や証拠から、どちらの言い分が正しいのか裁判官が判断し、それに応じた判決を下す手続きです。

通常は弁護士を双方がたてて争いますので、より確実に慰謝料や中絶費用を支払わせたいと考えるのであれば、男女問題に精通した弁護士に依頼すべきでしょう

いつまで請求できるの?(時効)

慰謝料は、損害と加害者を知ったときから3年で時効となります(民法724条)。つまり、基本的には、中絶をしてから3年が経過すると相手男性に慰謝料は請求できません。

ただし、見知らぬ男性からレイプされて妊娠中絶したようなケースでは、”加害者を知ったときから”という要件が満たされたとき、つまりは犯人が誰であるかが判明してから、3年間の時効が開始します。

一方、中絶費用の半額を請求するときは、不当利得返還請求権を行使します。本来は男性が半額を支払うべき中絶費用を女性が全額負担したときに、女性が多く負担した分(半額)を返して下さいと請求できる権利のことです。

この請求権は、権利の発生日、つまりは、女性が中絶費用を全額支払った日から起算して10年で時効となります(民法167条1項)。

未成年が中絶したら慰謝料請求できる?

「自分の未成年の娘(中学生・高校生)が妊娠してしまい中絶することになった。男性に慰謝料請求したい」という相談がよくあります。

この点、原則的に慰謝料請求は認められません。未成年の女子が相手であってもお互いの同意のうえでの性行為で妊娠し、同意のうえで中絶した場合には権利侵害があったとはいえないからです。

ただし、未成年同士の妊娠中絶ではこの原則が当てはまりますが、男性が成人の場合に慰謝料請求が認められた判例があります。さっそく見て行きましょう。

未成年の妊娠中絶で慰謝料が認められた判例

当時15歳だった女子が出会い系サイトで知り合った当時28歳の男性との性行為により妊娠し中絶しました。その中絶手術により苦痛を味わったとして男性を相手取り慰謝料請求した事案です。

判決では、男性に150万円の慰謝料(及び、弁護士費用17万円、堕胎に伴う治療費や交通費として22万1629円)の支払を命じました(東京地裁判決 平成25年12月19日判決)。

慰謝料が認められた理由

  • ①女子が未成年、男性が成人であったことから、男性側に妊娠を回避する責任があった
  • ②出会い系で知り合った二人の関係性や女子の年齢から、女子が出産して養育できないことは男性もわかっていた
  • ③性行為のときに、女子が妊娠したとしても男性には養育する意思がなかった

このような理由から男性の不法行為があったとされ、慰謝料請求が認められています。

また、150万円という高額な慰謝料が認められた要因としては、子宮外妊娠で女子は2回手術しており、手術やそれに伴う体調不良の影響で学校を欠席して進級ができずに転校することになったことなどの事情が考慮されています。

相手が成人男性でも慰謝料が認められない可能性も

この判例は、女子が未成年で男性が成人であるから慰謝料を認めたという単純なものではありません

男女が知り合った経緯、性行為に至る経緯、女子の年齢、男性の年齢、年齢差、妊娠発覚後の男性の女子に対する態度・対応など様々な要因を総合的に判断して不法行為責任を認めるかどうかが判断されます。

状況によっては、中絶による慰謝料請求が認められない、または、認められても少額である可能性もありますので、弁護士に相談してみるのも良いでしょう。

女性が勝手に中絶した場合の中絶費用や慰謝料について

女性から男性に中絶費用の請求はできる?

女性が男性の断りなく勝手に中絶した場合でも、女性は男性に対して中絶費用の半額は請求できるでしょう。産む産まないは女性が判断するものだからです。

男性から女性に慰謝料請求はできる?

男性が自分の子供が生まれてくることを楽しみにしていたのに、女性が自己判断で子供を堕ろしてしまえば、男性がショックを受けるのは当然でしょう。

しかし、女性が身体的状況から安全な出産が望めない場合や、子供を出産・養育するだけの金銭的余裕がない場合は、中絶が認められますので(母体保護法14条1項)、これらの正当な理由があれば男性から女性への慰謝料請求は認められないでしょう

ただし、男女が婚姻関係にある場合は、妻が堕胎するときに夫に同意書を書いてもらわなくてはなりません。妻が同意書を偽造して堕胎したとすれば、有印私文書偽造の罪が成立することもあります。

婚約破棄による中絶の慰謝料は認められる?

婚約者との間の子供を既に授かっている状況で婚約破棄をされたら、子供の将来を考えて中絶を選ぶ女性が多いのは当然です。

では、婚約破棄によりやむなく中絶をしたことに対する、男性への慰謝料請求は認められるのでしょうか。

こういったケースでは、婚約破棄により中絶を余儀なくされたことを婚約破棄の慰謝料算定をするさいの事情に汲み入れるのが一般的です。判例を二つ紹介しましょう。

婚約破棄により中絶したことが慰謝料算定に加味された判例

判例①

交際期間8年で結婚を前提に同居(内縁関係・事実婚)していた女性に明確な理由を述べることなく婚約の不当破棄をした男性に慰謝料を請求した事案です。

結納の準備を進めており、妊娠をしていた女性は結婚や出産の準備のため休職までしていました。また、女性は仕事の顧客にたいして結婚・出産の事実を知らせていました。しかし、男性に婚約破棄を切り出され、女性はやむなく堕胎手術を受けることとなりました。

裁判所は、女性が、婚約破棄やそれに伴う中絶で味わった身体的・精神的苦痛はかなり強いものであるとして慰謝料300万円の支払を男性に命じました(東京地方裁判所 平成21年3月25日判決)。

判例②

互いの両親に結婚することを伝え、婚約が成立していたにもかかわらず、男性の子を身篭った女性にたいし一方的に婚約の解消を切り出したことに対する慰謝料請求の事案です。

婚約破棄によりやむなく中絶を選択した女性が、中絶同意書の作成に協力するよう男性にお願いしたところ、DNA鑑定で自分の子供と判明するまでは同意書を作成しないと冷たく突き放しています。

ただし、婚約期間が5ヶ月と短く、また、婚約の事実を女性が周囲に広く公表していなかったことから、判例①よりも低額の120万円を慰謝料として認めました(東京地方裁判所 平成21年6月22日判決)。

彼女から中絶費用や慰謝料を請求されたら?

”彼女”といっても、現在進行形で交際している女性よりも、別れた後(別れ話になっている最中も含む)の彼女(元カノ)や遊びで付き合った女性から請求されるケースが多いでしょう。

こういったケースでは、別れを切り出されたことにたいする腹いせや、遊ばれたことに対する怒り、自分に対して興味をもって欲しいという願望から、妊娠したと嘘をつくことがあります。また、中には金銭目的で妊娠したと嘘をついて、中絶費用や慰謝料を騙し取ろうとする妊娠詐欺のケースもあります。

どのようなケースにせよ、彼女とは同意のうえで性交渉することが通常であることから、原則として慰謝料は認められませんし、中絶費用も男性は半額負担すれば良いとされています。

妊娠詐欺で、元彼女などから多額のお金を騙し取られたり脅し取られることもありますので、以下の二つの記事を読んでしっかりと防御策を講じる必要があるでしょう。

離婚問題で悩んでいる方は弁護士に無料で相談しましょう

全国対応で24時間、弁護士による離婚問題の無料相談を受け付けております。

弁護士と話したことがないので緊張する…相談だけだと申し訳ない…とお考えの方は心配不要です。

当法律事務所では、ご相談=ご依頼とは考えておりません。弁護士に解決方法だけでもまずは聞いてみてはいかがでしょうか。

ご相談のみで問題が解決する方も多くおられますので、日本一気軽に相談できる法律事務所にメールまたはお電話でご連絡ください。