成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、精神上の障害や高齢などのために判断能力が不十分となってしまっている人が、法的に不利益を受けないようにサポートするための制度です。
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に申立てをして「成年後見人(せいねんこうけんにん)」をつけてもらう必要があります。

また、成年後見制度には、「任意後見(にんいこうけん)」と「法定後見(ほうていこうけん)」の2種類が用意されています。

任意後見」とは、将来自分の能力が衰え十分な判断力がなくなってしまう場合に備え、あらかじめ自分の後見人となる人を指定しておくものです。
自分の信頼できる人を、自分自身で後見人に選任することができるというメリットがあります。

これに対して「法定後見」とは、任意後見によって指定された後見人がいない場合に法律の定めによって一定の親族や第三者などが後見人等となり、本人の法律上の行為を代理等することで本人を法律的に保護する制度です。

本人の判断能力が不十分となってしまった場合、自分の財産を自分自身で管理することができなくなってしまいます。そのような状態を放置しておくと、訪問販売で高額な商品を買わされてしまったり、お金をだまし取られるなど不都合な事態が発生するかもしれません。

このような事態を防止するために、成年後見制度があるのです。
成年後見制度を上手に利用することで、判断力の不十分となってしまった本人や、その財産などを保護することができるようになります。

今回こちらでは、成年後見制度の概要や利用した場合のメリット・デメリット、そして利用の手順などを解説させていただきます。

この記事の目次

1.成年後見制度とは?

冒頭でご紹介したように成年後見制度とは、判断能力の衰えてしまった人を法律的に保護するための制度です。

認知症や知的障害または精神障害等の理由で判断能力が不十分な場合、各種の不都合が生じることがあります。

たとえば、不動産や預貯金など自分の財産管理をしたり、身のまわりの世話を受けるため介護サービスや施設への入所に関する契約を結んだりすることが難しくなることが考えられます。
親族が亡くなり、その相続人となった場合には遺産分割協議をする必要がありますが、それも自分自身で行うことが難しくなってしまうでしょう。
さらに、自分にとって不利益な契約であっても、それを判断できないため契約を結んでしまい大きな損失を受けてしまう可能性もあります。

社会的弱者である、このような判断能力の不十分な方々を法的に保護し,サポートしようというのが成年後見制度です。

成年後見制度を利用することで、たとえば本人が高額な商品を購入させられてしまったり必要もない契約などをしてしまった場合に、成年後見人などはその契約を取り消したりすることができることになります。

法定後見制度を利用すれば、家庭裁判所によって選任された成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、本人(成年被後見人・被保佐人・被補助人)の利益を最優先に考え、法的に保護してくれるのです。

成年後見人等は、本人を代理して各種の契約をしたり、本人が自分で法律行為をするときには同意を与えたり,同意を得ずにしてしまった本人の契約などを取り消したりする形で本人を保護・支援します。

2.成年後見制度には2種類ある

成年後見制度には、その利用法の違いによって「法定後見」と「任意後見」という2種類があります。

(1)法定後見制度

痴ほう症など何らかの事情によって本人の判断力が現時点ですでに低下してしまっている場合、本人だけにしておくと各種の不都合が発生する恐れがあります。
法定後見制度とは、このよう場合において本人や親族などが家庭裁判所に申立てをすることによって、本人保護のために後見人などを選任する制度です。

法定後見制度には、さらに「後見」「保佐」「補助」という3つの種類があり、それぞれの種類ごとに後見人などに与えられる権限や職務範囲が微妙に異なっています。
法定後見制度は、本人に残っている判断能力の程度などに応じて,これら3種類のうちから適切な制度を選べるようになっているのです。

これら3つの類型の後見人などに認められる権限や職務範囲に関して共通する点は、本人の日常生活の実際の行為に関する権限がないということが挙げられます。
また、成年後見制度を利用した場合、本人は一定の資格に関して欠格事由に該当し公務員や医師、介護士や警備員、会社役員などから当然に失職(退職)をすることになります(「欠格条項」)。
この「欠格条項」は、各種の法律によってそれぞれ定められています。

欠格条項は撤廃された

従来からの批判として、成年被後見人等(法定後見制度を利用している「本人」)を一定の資格から一律欠格とするのはおかしいのではないかという議論がありました。
これを受け、2019年6月参議院において各種法律で定められている「欠格条項」を撤廃する法案が可決成立しました。

このため、今後は成年被後見人などになったとしても、一律一定の職業から失職することは避けられるようになります。
今後は、それぞれのケースごとに個別的に判断し、失職させるのが適切かどうか判断されることになる予定です。

なお、成年被後見人になった場合には、各市区町村における印鑑登録が抹消されることになっています。

それでは、法定後見制度の3類型について順に見ていくことにしましょう。

①成年後見

精神上の病気や痴ほう症などの理由により、判断能力がまったくないと家庭裁判所に判断された場合、その人には成年後見人がつけられることになります。
この場合、成年後見人をつけてもらう人のことを「成年被後見人(せいねんひこうけんにん)」といいます。

これを分かりやすく表すと、つぎのようになります。

成年被後見人判断能力が常にまったくない状態の人
成年後見人成年被後見人をサポートする人(被後見人の行為を代理または取消す)
成年後見の具体的な対象者とは?

民法上では、成年後見の対象となる人は「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」とされています(民法7条)。

具体的には、常に判断能力がまったくなく、自分で日々の買い物などもできないような状態の人が成年後見の対象となります。

成年被後見人をサポートすることになる成年後見人には、被後見人の財産の管理や法律行為の代理権と取消権が認められます(「法律行為」とは、契約を行うことだと考えるとわかりやすいと思います)。
「取消権」とは、被後見人が勝手に行ってしまった法律行為を取り消すことのできる権利です。

成年後見制度のポイント

成年後見制度のポイントを表にまとめると、つぎのようになります。

成年後見制度のポイント
対象者判断能力がまったくない人
家庭裁判所へ申立てができる人本人・配偶者・4親等以内の親族・検察官・保佐人・補助人・市区町村長など
後見人の権限財産管理に関する代理権・取消権
申立てによって与えられる権限特になし
欠格となる資格・職業公務員・医師・介護士・会社役員など
※法改正により、一律欠格となるのではなく、個別的に判断されることになります。

参考:「後見開始の審判」(裁判所)

②保佐

判断能力がまったく無いわけではないけれど、かなり判断力が不十分と判断される人もいます。
この場合、本人を法律的に守るためには、法定後見制度の「保佐」という制度を利用することになります。

家庭裁判所に「保佐開始の審判」の申立てをして、それが認められた場合には、判断力が著しく不十分な人に対して「保佐人」がつけられることになります。この場合、判断力が著しく不十分な人のことを「被保佐人」といいます。

これをわかりやすくまとめると、つぎのようなイメージになります。

被保佐人判断力が著しく不十分であるため誰かのサポートが必要な人
保佐人被保佐人をサポートする人(被保佐人の行為の同意・代理・取消し)

成年被後見人の場合と比べて被保佐人には、ある程度までは自分で法律行為をすることが認められます。
しかし、高額な商品の購入など一定以上の重大な財産上の行為に関しては保佐人の同意が必要となります。

保佐人の同意が必要な行為であるにもかかわらず、同意なしに被保佐人が勝手に行った場合には、保佐人はその法律行為を取り消すことができます。

保佐人の同意が必要な行為

被保佐人は通常の法律行為(契約など)は自分自身で行うことができますが、一定の重大な行為を行う場合には、保佐人の同意を得る必要があります。
保佐人の同意が必要な行為であるにもかかわらず、その同意なしに行われた法律行為に関しては、保佐人は取消すことが認められています。

保佐人の同意が必要な行為は民法13条によって、大体つぎのように定められています。

民法13条1項(保佐人の同意を要する行為等)
①貸していたお金の返済を受けたりすること
②借金をしたり、他人の保証人となること
③不動産など高額な財産を買ったり売ったりすること
④裁判を起こすこと
⑤自分の物を無料で人にあげたり、和解・仲裁合意をすること
⑥相続の承認や放棄、遺産分割すること
⑦誰かの財産を無料でもらうことを拒絶したり、遺贈を放棄したり、義務を伴う贈与や遺贈を承認すること
⑧建物の新築や改築・増築などをすること
⑨一定期間以上の賃貸借契約を結ぶこと
⑩以上の行為を法定代理人として行うこと
保佐制度のポイント

保佐制度に関する重要ポイントを表にまとめると、つぎのようになります。

補佐制度の重要ポイント
対象者判断能力が著しく不十分な人
家庭裁判所へ申立てができる人本人・配偶者・4親等以内の親族・成年後見人・補助人・検察官・市区町村長など
後見人の権限同意権・取消権(借金・債務の承認・相続の承認または放棄などなど)
申立てによって与えられる権限特別な事情によって必要とされる一定の事項に関する同意権・取消権・特定の法律行為に関する代理権
欠格となる資格・職業公務員・医師・介護士・会社役員など
※法改正により、一律欠格となるのではなく、個別的に判断されることになります。

参考:「保佐開始の審判」(裁判所)

③補助

ある人の判断能力が不十分であるため、本人に財産管理を任せておくことが不適切である場合があります。
たとえば、軽度の認知症などのため本人に不必要な契約を結んでしまう恐れがあるような事例では、財産を失ってしまわないように誰かがサポートしてあげる必要があります。

このような場合、本人や一定の親族が家庭裁判所に申立てることで「補助人」がつけられることがあります。
補助人のサポートを受ける人のことを「被補助人」といいます。

これを分かりやすく表すと、つぎのようになります。

被補助人判断能力が不十分な人
補助人被補助人をサポートする人(被補助人の行為に同意を与える)

被補助人とは、法定後見制度の中では、もっとも判断能力が一般成人に近い人のことだと考えればよいでしょう。

補助制度に関する重要ポイントを表にまとめると、つぎのようになります。

補助制度の重要ポイント
対象者判断能力が不十分な人
家庭裁判所へ申立てができる人本人・配偶者・4親等以内の親族・成年後見人・保佐人・検察官・市区町村長など
後見人の権限特になし(家庭裁判所に申立てることで特定の事項に関して同意権・取消権を受ける)
申立てによって与えられる権限借金・債務の承認・相続の承認や放棄など一定の範囲内の事項に関する一部の行為についての同意権・取消権・特定の法律行為に関する代理権
欠格となる資格・職業特になし

参考:「補助開始の審判」(裁判所)

(2)任意後見制度

任意後見制度とは、まだ本人が正常な判断力を持っているうちに将来自分の判断力が不十分となってしまった時に備え、事前に自分に代わって財産の管理や法律上の行為などをしてくれる人を指定しておく制度です。

法定後見の場合と異なり任意後見では、本人の判断力が確かなうちに成年後見人を指定する契約(「任意後見契約」)をしておきます。
そして、実際に認知症などにかかった時に家庭裁判所に申立てをすることで、本人は任意後見によって保護してもらうことができることになります。

「今は元気だけど、これから認知症になったらどうしよう?」

……などという不安を抱えている人は、世間にたくさんいらっしゃるものです。任意後見制度は、そのようなときに利用できる制度です。

3.成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見制度(法定成年後見・任意後見)を利用した場合、つぎのようなメリットとデメリットが考えられます。

(1)メリット

  • ① 判断能力が不十分となった人の財産管理や身上監護ができる
  • ② 関係者が適切だと思う人を後見人・保佐人・補助人とすることができる(任意後見の場合)
  • ③ 本人が行った不必要な契約などを取り消すことができる(法定後見の場合)

(2)デメリット

  • ① 手続きに一定の手間と時間がかかる
  • ② 任意成年後見では公正証書を作り登記することが必要となる

4.成年後見制度利用者の動向

2018年3月最高裁判所事務総局家庭局による統計によると、成年後見制度に関する利用者はつぎのようになっています。

(1)年度別推移

上記統計によると、2017年1月から12月までに行われた成年後見制度の申立件数は全体として35,737件に上っています。
内訳としては、もっとも多いのが後見開始の申立てで27,798件。保佐開始の申立てが5,758件、補助開始の申立てが1,377件。任意後見監督人の選任が804件となっています。

利用者の動向に関する年度別推移に関する詳細は、つぎの表のようになっています。

全体として、成年後見制度の利用者数は増加傾向にあると考えてよいでしょう。

(2)申立人の割合

成年後見制度に関する申立人に関しては、成年被後見人の子供による申立てがもっとも多く9,641件(約27.2%)。
次いで市区町村長による申立てが7,037件(約19.8%)、本人によるものが5,048件(約14.2%)の順となっています。

(3)後見の開始原因の割合

成年後見の開始原因としては、多いものから順につぎのようになっています。

  • ① 認知症(約63.3%)
  • ② 知的障害(約10.2%)
  • ③ 統合失調症(約8.6%)

このように圧倒的に認知症のケースで利用されていることが分かります。
近年の高齢化社会の進行により、認知症にかかる老人が多くなり、それに伴い後見制度の利用が増えているのです。

(4)申立ての動機

成年後見を申し立てる動機について、上位3位はつぎのようになっています。

  • ①預貯金等の管理・解約(約82.4%)
  • ②身上監護(約32.7%)
  • ③介護保険契約(約19.6%)

※重複回答を含む。

このように、申立ての動機としては、成年被後見人などの預貯金に関するものが圧倒的に多くなっています。
本人が痴ほう症などにかかり判断力がまったく無くなってしまった場合、預貯金の引き出しもできなくなってしまいます。後になってから慌てることのないように、将来に備え、後見制度の利用を検討しておく必要があります。

5.成年後見人の仕事内容

家庭裁判所によって成年後見人に選任された場合(法定後見の場合)、その仕事は……

「本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行うとともに、本人の財産を適正に管理していくこと」

と、定められています。

この原則のもとに、成年後見人は大きく分けて「財産管理」と「身上監護」のふたつの業務を行うことになります。

(1)財産管理

成年被後見人の財産を守るため、成年後見人には財産管理権が認められています。
財産管理権の行使として、成年後見人はつぎのような仕事をすることになります。

  • ① 現金・預貯金の管理
  • ② 収入・支出の管理
  • ③ 有価証券などの管理
  • ④ 不動産などの管理
  • ⑤ 確定申告・納税など税務関係の処理

必要に応じて、上記以外にも職務として、その他の管理などを行うこともあります。

(2)身上監護

成年後見人は、被後見人の身の回りに関する契約など法律上の行為をサポートします。
ただし、成年後見人が行うのは、あくまでも成年被後見人の法律上の行為の代理に限定されます。介護や生活用品の買い物など法律行為以外の行為に関しては、成年後見人の職務に該当しません。

成年被後見人の身上監護に関係する事柄に関して、成年後見人はつぎのような仕事をすることになります。

  • ①介護保険関係の申請など
  • ②介護施設などとの契約
  • ③医療関係の契約
  • ④身の回りに関係する契約
  • ⑤療養看護に関する契約

(3)成年後見人が就任したときにする仕事

家庭裁判所によって成年後見人が選任された場合、成年後見人は最初に主としてつぎのような作業を行うことになります。

①本人や家族などとの面談

これからの後見に関する事務をスムーズに行うため、被後見人本人や家族・関係者などと面談を行い、必要事項の通告や被後見人に関する情報などの収集を行います。

②財産に関する書類・印鑑などの受領

今後、被後見人の財産を直接管理するため、家族などからつぎのような物の引き渡しを受けます。

  • 現金
  • 預貯金の通帳
  • 権利書(不動産登記済権利証)
  • 有価証券等
  • 保険証券
  • ハンコ(実印・銀行印など)
  • 印鑑登録カード

③後見人であることの銀行等への届け出

銀行通帳や銀行印、保険証券などの引き渡しを受けた場合、成年後見人は銀行や証券会社において成年後見人として就任した旨の届け出を行います。
そしてそれ以降、後見人は本人を代理して預貯金の管理などを行うことになります。

④成年後見人としての登記事項証明書の取得

家庭裁判所によって成年後見人等に選任された場合、その事実が法務局によって登記されることになっています。

成年後見人等は、その職務を行うため自分の身分証明書として登記事項証明書を取得することになります。

⑤財産目録の作成

成年後見人等は、成年被後見人等の財産を調査し、財産目録を作成します。
この財産目録は、成年後見人等として選任されてから1か月以内に家庭裁判所に提出する義務が課せられています。

⑥年間支出額の算出

成年被後見人等のこれまでの家計の収入・支出のデータから、今後1年間に予想される収入・支出を計算し、収支のバランスを明確にします。

6.家庭裁判所による監督

成年被後見人等の財産が横領されるなどの不正を防止するため、成年後見人等は、家庭裁判所の監督を受けることになっています。

このため家庭裁判所は、必要に応じていつでも成年後見人等に、その職務状況について報告を求めることができます。
しかし実際の運用では、1年に1度の報告が一般的となっています。

ただし、成年被後見人の本人の生活場所に変化があった場合や重要な財産を処分した場合には、その都度家庭裁判所へ報告する必要があります。
たとえば、本人が施設に入所することになったり、入所施設を移転した場合などには家庭裁判所へ報告することが必要となります。

7.成年後見人等の職務の終了

成年後見制度は、判断力が不十分な人を法的に保護するための制度です。
そのため、いったん成年後見等が開始した場合、本人が判断力を取り戻して後見人などが不要になるか、本人が亡くなるまでは後見人等としての職務が終了することはありません。

このように成年後見人等の職務は決まった期間がないため、自分の意思によって辞任することが認められています。
しかし、勝手にやめられてしまっては保護の対象である成年被後見人等が困ってしまうため、辞任するには家庭裁判所の許可が必要とされています。また、辞任が認められるためには、辞任する正当な理由があることが必要です。

家庭裁判所によって解任されることも

何か特別の事情があり、家庭裁判所によって成年後見人等としてふさわしくないと判断された場合、成年後見人等は解任されることがあります。
たとえば家庭裁判所への報告義務があるにもかかわらず、その義務に違反した場合には、家庭裁判所は成年後見人等を解任することができます。

8.どんな場合に利用する?|法定後見制度の選択基準

本人の判断力がすでに不十分となってしまっている場合、任意後見ではなく法定後見を検討することになります。
すでにご覧いただいたように、法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3つの種類があります。

これら3つの制度は、本人の判断力の低下の程度に応じて利用を選択することになります。

具体的には、それぞれつぎのような基準で選択するとよいでしょう。

(1)後見

すでに本人に判断力がまったくない場合、成年後見制度を利用することになります。
具体的には、本人がつぎのような状態に利用することになるでしょう。

「精神上の病気などにより、ひとりではまったく何もできない」
「認知症がかなり進み、本人だけでは日常の買い物などをすることが完全に無理になってしまった」

実際、成年後見は利用者の過半数が認知症を原因とするものになっています。

(2)保佐

本人の判断力が一般からみて、かなり不十分な場合には保佐制度を利用することになります。
本人は認知症を発症しているけれど、まだある程度判断力が残っている。しかし、本人だけにしておくのは不安がある……などの場合に利用を検討するとよいでしょう。

「中程度の認知症のため、日常生活の買い物など自分である程度のことはできるけれど、できないことが多くなり生活に支障が出始めている」

(3)補助

補助制度は、軽度の認知症の場合などに利用されることの多い制度です。
具体的には、つぎのような状態の場合に利用を検討するとよいでしょう。

「以前から多少の物忘れなどはあったが、最近その程度がひどくなり、同じ新聞を二重に取ってしまった」
「訪問販売などで、不要な商品をいくつも買ってしまう」

なお、補助制度は、本人が単にお金を浪費する傾向があるというだけでは利用することはできません
法定後見制度は、あくまでも精神上の障害や認知症などによって本人の判断力が不十分である場合にしか利用することができない制度だからです。

以前は「準禁治者」という制度があり、浪費癖のある人も対象となりましたが、現在では単なる浪費癖のある人は成年後見制度の対象から除外されています。
しかし、浪費癖の原因が痴ほう症などによる場合には制度の利用が可能です。

9.法定成年後見制度のメリット

法定後見制度を利用した場合、つぎのようなメリットを受けることができます。

①後見人に財産を守ってもらえる

成年後見人がいる場合、被後見人の財産を維持管理してもらえます。

本人が判断能力を失ってしまった場合、たとえ家族であったとしても本人の財産を処分したりすることができません。
仮に本人を老人ホームなどに入所させるお金を作るためであったとしても、本人名義の自宅不動産などを売却することはできないのです。

このような場合に成年後見人がいれば、本人の財産の処分などを行い、本人のために必要なお金を用意することなどができます。

②適切な生活環境を維持してもらえる

本人が認知症などにより判断能力を失ってしまった場合、介護施設などに入所することが必要になることがあります。それらの施設に入るためには利用契約が必要となりますが、判断能力がない以上、本人単独では契約を結ぶことはできません。
本人単独では契約が結べない以上、そのままでは施設を利用することができなくなってしまいます。

このような事例において成年後見人がいる場合、成年後見人には本人の代理権が認められるため、本人に代わって施設と契約を締結することができます。

また、病状の状態に応じて適切な施設へ移転するなど、本人の生活や療養看護などを適宜管理してもらえます。

③親族などによる財産の使い込みを防止できる

本人に判断能力がなくなってしまった場合、自分自身の財産を適切に管理することができなくなってしまいます。
このような場合、世間では家族による財産の使い込みが問題になることがよくあります。

本人と一緒に住んでいることをいいことに、本人の預貯金を自分勝手に使いこんだり財産を処分したりする事例は後を絶ちません。

成年後見人が選任された場合、本人の財産に関する管理・処分権が後見人に移るため、たとえ同居の親族であったとしても本人の財産を勝手に処分することができなくなります。

④不要な契約をした場合、取り消してもらえる

家庭裁判所によって成年被後見人とされた場合、本人の行った契約など法律行為は取消すことができるようになります。

悪質な訪問販売などによって不用品や高額な商品を購入してしまった場合でも、成年後見人等がいれば契約を取り消してもらうことができます。

ただし、日用品の購入などに関しては、本人が単独で行うことが認められているので注意が必要です。

⑤遺産分割協議などができる

遺産分割協議は長期間放置してしまうと数次相続などが発生する可能性が高くなるため、相続後、なるべく早めに行う必要があります。
本人が誰かの相続人であった場合、本人の判断能力が衰えてしまっている状態では遺産分割協議を行うことができません。

このような場合に成年後見人がいれば、本人に代わって遺産分割協議を行うことができます。
成年後見人がいることによって、相続人当事者間の相続手続きなどがスムーズに処理できる可能性が高くなるのです。

10.法定後見制度のデメリット

上記のようなメリットの反面、法定後見制度を利用する場合、つぎのようなデメリットも考えられます。

①手続きに時間がかかる

法定成年後見制度を利用する場合、家庭裁判所で所定の手続きを行う必要があります。

家庭裁判所では、申立てから実際に成年後見人等が職務を行うことができるようになるまで最低でも3か月から6か月かかるのが一般的です。

このため、本人の病院代や施設への入所費用などを作るため、本人の財産を売却してすぐにお金が必要な場合には対応が遅れがちになってしまう恐れがあります。

②費用が掛かる

法定後見制度を利用するためには、一定の費用が必要となります。

成年後見人の選任申立てでは家庭裁判所に費用が掛かります。そして、成年後見人が選任された場合には、後見人への報酬が発生します。

特に後見人として弁護士や司法書士、介護福祉士などが選任された場合には最低でも毎月2~3万円以上の報酬を支払う必要があるので注意が必要となります。

ただし、後見人が本人の親族である場合には、報酬を支払わないとするケースもたくさんあります。

③財産支出の自由度が下がる

成年後見人が選任された場合、本人の財産の支出などは後見人が責任をもって行うことになります。
本人の財産の支出は、基本的に本人のために行われることになるため、親族としては本人の財産が必要な場合でもそれを利用することが難しくなります

④原則として死亡するまで後見が続く

成年後見は一度利用すると、原則として本人が死亡するまで後見が続くことになります。

このため、たとえば本人の不動産を売却することを目的として成年後見人の選任を申し立てた場合、その売却が終了したとしても後見人は被後見人の財産の管理を継続して行うことになります。

11.まだ判断力があるうちに利用する|任意成年後見制度

すでに判断力に問題が発生してから利用することになる法定後見制度と異なり、任意成年後見制度では本人の判断力が確かなうちに後見人を指定しておくことになります。

任意後見を利用する場合には、将来自分の後見人となってもらう人と主に以下の事項に関して公正証書で契約を結び、さらに法務局で後見の登記をする必要があります。

  • ① 後見人を誰にするのか
  • ② 後見事務の範囲
  • ③ 報酬の額

任意後見の3つの種類

任意後見には、後見の効力がいつ発生するのかなどの点において3つの種類があります。
①即効型、②将来型、③移行型です。

それぞれ、つぎのような特徴がありますので、自分に適したものを利用するとよいでしょう。

①将来型

将来型」とは、まだ判断力がしっかりしているうちに任意後見契約を結んでおき、将来判断力が衰えたときに任意後見人に自分の財産管理や身上監護などを行ってもらうタイプの任意後見です。
このパターンは、任意後見の基本形といってよいでしょう。

たとえば身寄りがなくて老後の生活に不安があったり、障害のある子供がいる場合などに利用することで、将来の不安をなくすことができます。

ただし、任意後見契約を結んでから実際に後見が必要となるまでに長い年月がかかる場合には、つぎのような問題が発生する可能性があります。
実際に後見が必要な状況になっているにもかかわらず、関係者が気づかない場合には、結果として任意後見の意味がなくなってしまう恐れがあるのです。

このような問題点を解決するため、近年ではつぎの「移行型」が採用されることが多くなっています。

②移行型

任意後見における「移行型」とは、任意後見契約と同時に、いわゆる「見守り契約」を結んでおくパターンです。

「見守り契約」とは、本人の状態が後見人による保護が必要なレベルとなっていないかを確認するため、定期的に面談などすることによって本人の見守りをする契約です。
そして、実際に本人の状態が後見人による保護が必要な状態となった場合には、家庭裁判所で必要な手続きを行い任意後見がスタートすることになります。

移行型による任意後見では、本人において後見が必要となった場合、迅速に後見人による保護の開始が期待できる点でメリットがあります。

移行型、その他のパターン

移行型による任意後見では、見守り契約のほかに、つぎのような契約が結ばれることもあります。

①任意代理契約
財産の管理や介護契約など身上監護に関する委任契約

②死後事務委任契約
本人が死亡した後の葬儀等必要な手続きに関する委任契約

上記のような契約を適宜結んでおけば、つぎのようなメリットを受けることができます。

「自分が元気なうちは委任契約によって定めた範囲の財産管理などを任せ、自分でできることは自分でする。そして、判断力がなくなった場合には、迅速に任意後見人による保護を開始する」

任意後見における移行型では、各種の契約を選択することによって、このようなことが可能になるのです。

③即効型

任意後見における「即効型」とは、任意後見契約を結んですぐに後見人による保護が必要であるケースで利用されるパターンです。

すでに本人の判断力が衰え、後見人によるサポートが必要な状態のときに利用されるパターンといえます。
ただし、任意後見は契約によって成立するものですので、契約をできるだけの判断力があることが前提条件となります。

任意後見契約を結んだ時点で、すでに本人の状態が後見人によるサポートが必要な状態である場合、すぐに後見人に財産管理などをしてもらわなければいけません。

このパターンは法定後見に似ていますが、後見人の代理権の範囲が契約によって定められるという点などで異なっています。

(1)任意成年後見のメリット

任意成年後見を利用した場合、つぎのようなメリットを受けることができます。

①信頼できる人に後見人になってもらえる

任意後見では、いざ自分が認知症などにかかった時に成年後見人になってくれる人を、あらかじめ指定することが可能です。

法定成年後見では、場合によっては見ず知らずの人が自分の後見人になる可能性があります。判断力が低下したとしても、やはり自分の面倒は自分の知っている信頼のおける人に任せたいと思うのが通常です。

任意成年後見では、自分のことを任せる人を事前に決めておくことができますので、本人だけでなく家族も安心することができるというメリットが考えられます。

②後見人の職務範囲を決めることができる

任意後見では、後見人の職務を本人があらかじめ希望する範囲に限定することが可能です。
たとえば、後見人の代理権の範囲を、本人の介護関係に関する契約を締結することに限定することができます。

これに対して法定後見の場合、後見人には本人の財産に関する包括的な代理権が認められるため、本人は日常の買い物など以外には自分で契約などをすることができなくなります。

③後見人の報酬額をあらかじめ決められる

任意後見では、契約によって後見人の報酬額を決めることができます

たとえば弁護士や司法書士などを後見人にする場合には毎月〇万円、親族が後見人になる場合には無報酬などと自由に定めることが可能です。

これに対して法定後見の場合には、後見人の報酬は裁判所が認めた額となります。

(2)任意成年後見のデメリット

任意後見を利用する場合、つぎのようなデメリットが考えられます。

①判断力が十分ないと利用できない

任意後見を利用するためには、前提条件として本人がしっかりした判断力を持っていることが必要となります。
すでに判断力が衰えてしまっている場合には、任意後見を利用することができず、法定後見制度を利用することになります。

②本人の契約を取り消すことができない

任意後見の場合、後見人には本人の行った契約など法律上の行為に関して取消権が認められません
このため、本人が勝手に不要なものを売りつけられてしまったような場合には、その契約を取り消すことができなくなってしまいます。

これに対して法定後見では、後見人に取消権が認められるため、本人が行った契約などを後見人は取消すことができます。

③後見監督人が選任される

任意後見では、後見人を監督するため家庭裁判所によって後見監督人が選任されることになっています。
後見監督人は、任意後見人の職務を監督することになるため、場合によっては任意後見契約によって定められた代理権の行使が制限される可能性があります。

たとえば、本人の居住用不動産を売却することができる内容の任意後見契約に基づいて後見人が売却しようとするのを後見監督人によって制限される可能性などが考えられます。

④後見監督人の報酬の支払いが必要

任意後見では、家庭裁判所によって後見監督人が選任されるため、この後見監督人への報酬を支払う必要があります
任意後見契約で、後見人の報酬を無報酬とした場合であっても、後見監督人にしたいしては報酬を支払う必要があるので注意が必要となります。

なお、報酬の額に関しては家庭裁判所が決定した額となります。

(3)任意後見制度を利用するための判断基準

つぎのようなケースに該当する場合、任意後見制度の利用を検討するとよいでしょう。

  • ① 現時点では判断力がしっかりしてはいるけれど、自分が認知症になってしまうことが気がかりな場合
  • ② いざというときには、後見人として自分の信頼する人を選びたい場合

12.任意後見利用時にかかる費用

任意後見を利用するためには、将来自分の後見人になってくれる人と後見事務の範囲や報酬額などに関して公正証書で契約書を作っておく必要があります
また、任意後見契約を結んだ場合には、その事実を法務局で登記しなければいけません

このため任意後見を利用するためには、主につぎのような費用の負担が必要となります。

①公正証書作成手数料:11,000円

任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。
公正証書は公証人によって作成される公文書であるため、一定の手数料を支払う必要があります。
任意後見契約の場合、1契約につき11,000円の手数料がかかることになります。

任意後見人となる人が複数いる場合、その人数ごとに11,000円が必要です。
また、後見人に報酬を支払う場合、手数料が増額される場合もあるので注意が必要です。

②法務局に納める印紙代:2,600円

任意後見契約の内容は、法務局において登記されることになります。
法務局での登記費用として2,600円が必要となります。

③登記嘱託手数料:1,400円

任意後見に関する登記は、公証人が法務局に嘱託(依頼)することによって行われます。
このため、自分たちがわざわざ法務局まで出向き登記する必要はありません。
任意後見の登記に関して、公証人から法務局に嘱託してもらうための手数料として1,400円がかかります。

④書留郵便料:約540円

書留の郵便料金として実費(540円から635円前後)の支払いが必要です。

⑤正本謄本の作成手数料:1枚250円×枚数

任意後見契約証書をもらう場合、1枚につき250円がかかります。

参考:「任意後見」(日本公証人連合会)

13.成年後見人等への報酬について

民法では、つぎのように後見人の報酬を定めています。

民法862条(後見人の報酬)
「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。」

後見人の職務は、決して楽なものではありません。被後見人の各種財産の管理、介護や医療施設との契約、親族とのやりとりなど、後見人の職務は多岐にわたります。
このため民法では上記のように定め、家庭裁判所が適切と認めた報酬を「被後見人の財産の中から」後見人に与えることができることとしているのです。

後見人以外の関係者にも報酬が与えられることも

後見制度は、判断力の十分でない人を法律的に保護しようとする制度です。
すでにご紹介させていただいたように、成年後見制度には法定後見と任意後見があり、法定後見には後見・保佐・補助という3つの種類があります。

法定後見におけるこれら諸制度では、判断力の不十分な人を保護する人のことを、それぞれ「成年後見人」「保佐人」「補助人」といいます。

任意後見人には、かならず後見監督人がつけられることになっています。
法定後見の場合、必須ではありませんが、家庭裁判所が必要と判断した場合には成年後見人等には監督人がつけられることがあります。
この場合、それぞれ「後見監督人」「保佐監督人」「補助監督人」となります。

成年後見人には上記のように報酬が与えられることになっていますが、報酬はこれら「保佐人」「補助人」「後見監督人」「保佐監督人」「補助監督人」(以下、「後見人等」といいます)の場合も同様です。
これら後見人等には、それぞれの職務の内容に応じて、家庭裁判所は被後見人などの財産の中から相当と認める報酬を与えることができます

実際の運用では、後見人等は過去1年の仕事内容などを家庭裁判所に報告し、報酬の付与を受けることになっています。

親族が後見人等の場合|無報酬となることも

法定後見制度を利用し、後見人等が選任されている場合にでも、かならず報酬が必要となるわけではありません。
特に後見人等が本人の親族である場合無報酬となることが一般的です

ただし近年では、親族を後見人等とした場合、本人の財産の流用など各種の問題が発生する事例が多いため弁護士や司法書士など第三者を後見人等とすることが多くなっています。

親族以外が後見人となる|「第三者後見人」とは?

成年後見制度が始まった当初は、後見人等には本人の親族が選ばれることが一般的でした。
しかし、親族によって本人の財産が流用される事例などがあり、問題となることがありました。
親族以外の後見人を第三者後見人」といいますが、家庭裁判所で選任される後見人の中で第三者後見人の割合は増加傾向にあります。

2017年には、第三者後見人の割合は全体の約73.8%にも上り、成年後見人といえば親族以外の第三者後見人が選任されることが一般的となっています。

専門職後見人とは?|第三者後見人の代表格

上記のように、判断力の衰えた本人に代わって親族以外の人が後見人になることを第三者後見人といいます。
専門職後見人とは弁護士や司法書士、社会福祉士など法律などの専門家が後見人になることをいいます

2017年に家庭裁判所によって選任された専門職後見人は、1位が司法書士、2位が弁護士という順になっています。

家庭裁判所によって専門職後見人が選任された場合、毎月報酬が発生することになります。
ただし、報酬の支払いは実務上、1年に一度の後払いという形で行われるのが一般的です。

14.後見人等の報酬の相場

後見人等に対する報酬の額については、法定後見と任意後見では扱いが異なります。

(1)法定後見の場合

法定後見の場合、後見人等への報酬の額は家庭裁判所が決定することになります。

①専門職後見人の報酬額の相場

弁護士や司法書士など専門職にある人が後見人になる場合、基本的につぎのような報酬が発生することになります。

基本報酬

弁護士などが後見人等になった場合、基本報酬は毎月2万円というのが相場です。
ただし、本人の財産が多い場合、基本報酬額はつぎのように増額されます。

管理財産の額毎月の報酬額
1000万円以上5000万円以下3万円~4万円
5000万円超5万円~6万円

引用元:「成年後見人等の報酬額のめやす(PDF)」(東京家庭裁判所立川支部)

保佐人、補助人の場合も上記基準に基づいて報酬額が決定されます。

ただし近年では、後見人等の報酬額は本人の財産額を基準とするのではなく、実際に後見人等がどのような職務を行ったのかによって算定すべきという考え方に移行しつつあります。

引用元:「成年後見 報酬改定へ 算定 財産額から業務に」(東京新聞)

②後見監督人等の報酬

後見人等に監督人がつけられている場合、その監督人にも報酬を請求する権利が認められます。
なお、任意後見の場合には、後見人にかならず後見監督人がつけられることになっていますので、それに対する報酬の支払いも必要となります。

後見人等の監督人の報酬額

後見人等の監督人には、つぎのような基本報酬が認められます。

管理財産の額毎月の報酬額
5000万円以下1万円~2万円
5000万円超2.5万円~3万円

なお、保佐監督人・補助監督人、任意後見監督人の場合も同様です。

付加報酬額

成年後見人等の後見等事務に関して、身上監護等について特別に困難な事情があった場合には、家庭裁判所は上記基本報酬の額に50%以内の範囲で相当と判断する報酬を付加することができることになっています。

付加報酬は、主としてつぎのような場合に認められることになります。

付加報酬額の具体例

①遺産分割調停により本人の財産を増額させた場合
被後見人の配偶者が死亡し相続が開始した場合において、被後見人に代わって遺産分割調停を行い相続財産として2000万円を相続する調停が成立した事案では、約55万円~100万円が後見人の付加報酬の相場です。

②居住用不動産を任意売却した場合
被後見人の療養看護の費用を作るために、被後見人が居住している不動産(土地・建物)を家庭裁判所の許可を得て3000万円で任意売却した事案では、約40万円~70万円程度が付加報酬の相場となります。

③訴訟を提起した場合
被後見人が交通事故など不法行為によって損害を受けたため、後見人が加害者に対して1000万円の損害賠償請求訴訟を提起し勝訴判決を受けて、被後見人の財産を1000万円増額した事例では、約80万円から150万円が付加報酬の相場とされます。

③後見人等が親族の場合

親族が本人の後見人等になった場合、報酬の請求ができるのかどうかに関して質問を受けることがあります。
親族であったとしても後見人等として財産管理行為などを行った場合には、報酬が認められることになります。

親族が後見人等になった場合、家庭裁判所では上記「専門職後見人」の報酬額を基準として一定額を減額などして報酬額が決定されることになります。

報酬を受けるには「報酬付与の申立」が必要

後見人等が専門職であろうと親族であろうと、報酬を受けようとする場合には、家庭裁判所に対して「報酬付与の申立」をする必要があります。
後見人等として職務を行ったからといって、自動的に報酬が支払われるわけではないので注意が必要です。

基本的には1年に一度、過去一年分に行った後見等の業務内容を家庭裁判所に報告し報酬の支払いを求めることになります。
申立てを受け、家庭裁判所では相当と判断する報酬を審判によって決定することになります。

(2)任意後見の場合の報酬額

任意後見による後見人の報酬は、あくまでも契約の内容に従うことになります。
任意後見は法定後見と異なり、当事者の契約によって成立する後見制度です。
そのため、後見人の報酬額についても当事者の契約によって自由に定めることができるのです

任意後見人の報酬額に関しては、上限も下限も制限がありません。
もちろん、無報酬とすることも可能です。

専門職を後見人にした場合

弁護士や司法書士、社会福祉士などを任意後見人とする場合、それぞれの専門家が定める報酬が毎月発生することになります。

専門職が任意後見人となる場合、月3万円前後が報酬の相場となります。

15.成年後見制度の利用手順

すでにご覧いただいたように、成年後見制度には「法定成年後見等」と「任意成年後見」の2種類があります。
それぞれの制度を利用するための手順は、つぎのようになります。

(1)法定成年後見を利用する場合

本人の判断力がすでに衰えてしまっているため、成年後見人や保佐人・補助人をつけたい場合、法定成年後見制度を利用することになります。

この場合、つぎのような手順で手続きが進んでいくことになります。

①家庭裁判所への申立て

法定後見制度を利用するためには、家庭裁判所で一定の手続きをする必要があります。

②家庭裁判所調査官による調査

申立てを受けた家庭裁判所では、家庭裁判所調査官によって必要事項に関して調査が行われます。
申立人、本人、成年後見人(保佐人・補助人)候補者らが家庭裁判所を訪れ、調査官に事情を聴かれることになります。

③精神鑑定の受診

ケースによっては、本人の精神状態などを正確に把握するため精神鑑定が行われることがあります。
ただし、実際に精神鑑定が行われるのは申立て事件全体の1割程度です。

④審判

提出された書類や調査官の調査結果などに基づき、必要に応じて家庭裁判所は成年後見人等を選任します。

申立書には成年後見人等の候補者を指定することができますが、かならずしも候補者が成年後見人等に選任されるとは限りません。
当事者の事情を考慮して、家庭裁判所は弁護士や司法書士などを選任することがあります。

⑤法定後見の登記

成年後見人・保佐人・補助人が選任され法定後見が開始した場合、その旨が法務局に登記されることになります。
なお、この登記は家庭裁判所から法務局へ嘱託されるため、当事者が法務局で手続きする必要はありません。

⑥法定後見の開始

成年後見人等によって、本人の財産管理などが始まります

手続きに要する期間

法定後見を利用するためには、上記のような手続きを経なければならないため、一定以上の時間がかかることになります。

法定成年後見制度導入当初はかなりの期間が必要でしたが、近年では3か月前後で成年後見等が始まることが一般的となっています。
長くても6か月程度の期間を見ておけば、後見人等によって後見事務が開始されると考えてよいでしょう。

参考:「成年後見制度に関する審判」(裁判所)
(http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_02_2/index.html)

参考:「ビデオ『わかりやすい成年後見制度の手続』」(裁判所)

申立てに必要な書類

家庭裁判所に法定成年後見等の開始の申し立てをする場合には、つぎのような書類が必要になります。

①申立書

申立書は家庭裁判所に行けば、定型の物を無料で入手することができます。
下記のリンクにアクセスすれば、インターネットからダウンロードすることも可能です。

参考:「後見開始申立書」(裁判所)

②本人の戸籍謄本、住民票または戸籍の附票

成年被後見人等になる本人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)と住民票または戸籍の附票が必要です。

③本人の診断書

法定成年後見制度は、本人が精神上の病気などの理由によって判断力が衰えている場合に利用できる制度です。
本人の病状等がどのようなものであるのかを明らかにするため、医師の診断書が必要となります。

④本人の成年後見等に関する登記がされていないことの証明書

申立書には、本人の成年後見等に関する登記がされていないことの証明書を添付する必要があります。

入手方法に関しては、以下のサイトを参考にしてください。

参考:「登記されていないことの証明申請」(法務省)

⑤本人の財産に関する資料

本人がどのような財産を持っているのか明らかにするため、以下のような資料を提出します。

  • 不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)
  • 預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)

⑥成年後見人等候補者の戸籍謄本および住民票など

成年後見人等の候補者に関する戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)、住民票(または戸籍の附票)を添付します。

なお、成年後見等の候補者が法人である場合には、法人の登記簿謄本(全部事項証明書)の提出も必要です。

場合によっては、これ以外の書類が必要となることもありますので、詳しくは家庭裁判所の指示に従ってください。

法定後見制度を利用するための費用

法定後見制度の申立てを行うためには、つぎのような費用がかかります。

①収入印紙

後見(保佐・補助)開始の審判の申立てには、800円分の収入印紙が必要となります。

②切手

家庭裁判所と当事者との間の連絡用に、一定額の郵便切手を納付する必要があります。
郵便切手の具体的な額や内訳に関しては、裁判所ごとに異なっているため実際に手続きを行う家庭裁判所に問い合わせるとよいでしょう。

一応の目安としては、3,000円前後から5,000円くらいが一般的です。

③登記費用

成年後見等が開始された場合、その旨が東京法務局に登記されることになっています。
このため登記費用として、2,600円分の収入印紙が必要になります。

④鑑定費用

家庭裁判所が本人の判断力の状態などを把握するため、医師による鑑定が必要と判断することがあります。
ただし、実際に鑑定が行われるのは、申立件数全体の1割程度にすぎません。

鑑定が必要とされた場合には相場として5万円から10万円程度の鑑定料が必要となります。ケースによっては、これ以上の費用が掛かる可能性もありますので注意が必要です。

法定後見等の終了

法定後見は、主としてつぎのような場合に終了することになります。

①成年被後見人等の判断力が回復した場合

法定成年後見制度は、そもそも判断力の衰えた人を法律的に保護するためのものです。
そのため、本人の判断力が回復し、本人に財産管理などを任せられる状態になった場合には法定後見等は終了することになります。

②成年被後見人等が死亡した場合

法定後見制度の対象である本人が死亡した場合、法定後見等は終了します。

(2)任意後見制度を利用する場合

まだ十分な判断力があるけれど、将来認知症になる場合に備えて後見人を決めておきたい場合には、任意後見制度を利用することになります。

この場合、つぎのような手順で手続きが進んでいくことになります。

①後見人となる人を決める

任意後見では、将来自分の後見人となる人を自由に決めることができます
任意後見人は、家族や友人・知人、弁護士や司法書士など専門家、そして法人でも指定することが可能です。
また、任意後見人は1人だけではなく、複数定めることもできることになっています。

ただし、つぎの欠格事由に該当する人は後見人となることができないので注意してください(第847条)。

民法847条(後見人の欠格事由)
①未成年者
②家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
③破産者
④被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
⑤行方の知れない者

②後見人の仕事内容を決める

任意後見では、自分に代わって後見人にしてほしい仕事内容を自由に決めることができます
ただし、一身専属権(結婚や養子縁組などをすること)は任せることが禁止されています。

後見人の仕事内容はたとえば、つぎのように細かく指定することも可能です。

  • 体調が悪くなって入院する際には、かかりつけの「○○病院に入院させてほしい」
  • 介護が必要になった場合には、「△△デイサービスを利用したい」

後見人の仕事内容を決める場合には、自分の将来の生活をイメージし、もっとも自分にとって快適となるよう決定しておくとよいでしょう。

ペットの世話は不可!後見人の職務内容

後見人の仕事内容は、上記のように当事者の契約によって自由に定めることができます。
しかし、任意後見における後見人の職務は、あくまでも本人の法律行為を代理することに限られます。「法律行為」とは、簡単に言うと「契約」のことです。

このため、後見人はつぎのような行為を行うことができません。

後見人ができない行為
①食料品の買い出し
②介護など身の回りの世話
③ペットの世話
④死後の葬儀
⑤その他、法律行為に該当しない行為

③任意後見契約の締結

任意後見を利用するためには、まず「任意後見契約」を結ぶことが必要です。
任意後見人になってくれる人と後見事務の内容や報酬額などについて話し合い、合意することによって任意後見契約が締結されます。

④契約書を公正証書で作成

任意後見契約は、公正証書によって契約書を作成することが必要とされています。
公正証書とは、公証人によって作成される公文書です。
そのため、本人と任意契約の受任者(将来任意後見人になる人)が公証役場で必要な手続きをすることになります。

公証役場は全国に約300か所ありますので、最寄りの役場を利用するとよいでしょう。

参考:「公証役場一覧」(日本公証人連合会)

⑤任意後見の登記

任意後見契約が成立した場合、その旨が東京法務局に登記されることになっています。
この登記は、公証人が嘱託によって行うため、本人たちが法務局に行って手続きを行う必要はありません。

⑥任意後見監督人の選任申立て

任意後見契約は、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されることによって効力が発生します

このため、本人の判断力が低下して後見人による保護が必要となった場合には、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申立てることになります

任意後見人は、任意後見監督人の監督のもと、任意後見契約で定められた範囲の法律行為(契約など)を行うことになります。

参考:「任意後見監督人選任」(裁判所)

手続きに要する期間

任意後見の場合、任意後見監督人選任の申立てをしてから、実際に選任されるまでは2か月前後の期間が必要となることが一般的です。

法定後見の場合には3か月前後から6か月程度かかるため、任意後見は法定後見よりも迅速に本人の保護を開始できるメリットがあります。

申立てに必要な書類

任意後見を開始するためには、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをする必要があります。

任意後見監督人選任の申立てをするために必要な書類は、基本的に法定後見制度の開始を申し立てるときのものと同様です。
ただし、これらに加えて公正証書で作成した任意後見契約書の写しを添付する必要があります

まとめ

今回は、成年後見制度の概要や利用するための手順などについてご覧いただきました。

人は誰でも老いていくものです。年齢がある程度以上高齢に達した場合、認知症などが原因で十分な判断能力を失ってしまう可能性は誰にでもあります。
そのような場合に利用できるのが成年後見制度です。

成年後見制度には、法定後見と任意後見があり、法定後見にはさらに「成年後見」「保佐」「補助」があります。

法定後見制度は、本人の判断力がすでに不十分となってしまっている場合に利用できるものであり、残っている判断力の程度に応じて3種類の中から適切な制度を選択することができます。

任意後見制度は、自分の判断力が不十分になる前に任意後見人と公正証書で契約を結んで置き、それを法務局で登記しておく制度です。

もし、ご自分自身やご自分の親族の将来に関して不安がある場合には、成年後見制度の利用を検討してはいかがでしょうか?

成年後見制度の利用に関して疑問がおありの場合には、当事務所へご相談ください。
全国どこからでも24時間相談を承っております。相談は何度でも無料ですので、お気軽にどうぞ。

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