相続に関するルールを定める相続法が2018年に改正され、早くも2019年から施行されることが決まっています。今回の改正では、被相続人の配偶者の法的立場を保護するため、各種の配慮がなされています。

そのうちのひとつに、被相続人による「持ち戻し免除の意思表示の推定」規定の新設があります。この規定によって、一定の場合においては、被相続人の配偶者は遺産分割に際して不利益を受けることがなくなります

今回は、この被相続人による「持ち戻し免除の意思表示の推定」規定について解説させていただきます。

  • 「持ち戻し免除の意思表示の推定とは、いったいどういうことなのか?」
  • 「被相続人の配偶者は、どんなメリットを受けることができるのか?」
  • 「改正法が施行されるのは、いつからなのか?」

……などなど、みなさんの疑問点にお答えしますので、最後までお読みください。

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特別受益者は遺産分割で不利益を受ける

相続において複数の相続人がいる場合、それぞれの具体的な相続財産を決めるために遺産分割協議を行うことが必要となります。この際に、よく問題となるのが「特別受益者」の存在です。

相続人の中に特別受益者とされる人がいる場合には、相続人間の公平を図るため特別受益者とされる人の相続財産を少なくするなどの処理が必要となるのです。

「特別受益者」とは

ある相続において相続人が複数存在する場合、相続人の中には被相続人から何らかの財産をもらっている場合があります。たとえばつぎのような場合、被相続人から利益を受けた相続人は特別受益者」とされ、遺産分割の際に相続できる財産が少なくされることになります。

一般的によくある事例としては、つぎのような場合に特別受益者として扱われることになります。

特別受益者として扱われるケース
  • 被相続人から生活の援助を受けた
  • 被相続人から現金をもらった
  • 被相続人に家を建ててもらった
  • 被相続人から何らかの財産の遺贈を受けた

配偶者が特別受益者の場合には各種の不都合があった

世間でよくある事例に、被相続人が死亡する前または死亡後に遺言によって、あとに残される奥さん(配偶者)のために居住用の不動産を贈与(遺贈)することがあります。このような場合、被相続人の配偶者は「特別受益者」とされ、相続において不利益を受けることがあり問題となることがありました

居住用不動産の贈与や遺贈を受けたことにより、その財産の分だけ遺産分割において相続できる財産を減らされることになってしまうからです(具体的に、どのような不都合が発生するのかについては後述します)。

特別受益持ち戻し免除の意思表示推定規定の新設(民法9034項)

この問題を解決するため、今回の法改正により「特別受益持ち戻し免除の意思表示の推定」に関する規定が新設されることになったのです。

この規定が適用される場合、原則として被相続人の配偶者は、遺産分割に際して特別受益者として扱われることがなくなります。そのため、その分相続財産が増えることとなり、被相続人の配偶者の法的立場の保護が図られることになるのです。

特別受益者がいる場合の相続分の計算方法

相続において複数の相続人が存在し、その中に特別受益者がいる場合には、遺産分割の際に少し特殊な計算方法をする必要があります。具体的には、つぎのような計算をすることになります。

相続人の中に特別受益者がいる場合の遺産分割の計算方法
①相続開始時点における相続財産の総額を算出する

②相続財産の総額に特別受益とされる財産の金額を合算する(「みなし相続財産」)

③みなし相続財産を基に、それぞれの相続分を計算する

④特別受益者とされる相続人の相続分から特別受益した財産を控除する

相続人の中に特別受益者がいる場合、上記のような特殊な計算方法が必要となります。この計算方法を「特別受益の持ち戻し計算」といいます。

この計算においては、もともと相続財産だった物の一部が「特別受益者」に譲渡されてしまったため、その財産を相続財産に「持ち戻し」することになります。そうすることで遺産分割のベースとなる、本来の相続財産がわかることになります。

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持ち戻し計算の具体例

それではここで、持ち戻し計算に関する具体例を見てみることにしましょう。

持ち戻し計算の事例

相続財産:自宅(2000万円)、預金(2000万円)

相続人:配偶者乙、子供A

上記の事例において、被相続人の生前に配偶者である乙さんが自宅不動産の贈与を受けていたとしましょう。この場合、相続開始時における相続財産は「預金(2000万円)」だけとなります。

しかし、乙さんは今回の相続において特別受益者に該当するため、上記のように「特別受益の持ち戻し計算」をすることになります

「みなし相続財産」

「特別受益の持ち戻し計算」をするためには、まず「みなし相続財産」を計算する必要があります。みなし相続財産とは相続開始時の相続財産に特別受益とされる財産を合算したものです。

みなし相続財産の計算の元となる財産
相続開始時の相続財産:2,000万円(預金)特別受益の持ち出し財産:2,000万円(自宅)

この事例において、みなし相続財産はつぎのようになります。

みなし相続財産「2,000万円(預金)」 + 「2,000万円(自宅)」 = 4,000万円

この「みなし相続財産」をベースとして、それぞれの相続人の具体的相続分を計算することになります。

具体的相続分

相続人の中に特別受益者がいる場合、それぞれの相続人が相続することになる財産は、つぎのような計算をすることで求めることができます。

乙さんの相続分

今回の相続は、第一順位の相続人によるものとなるため、配偶者である乙さんの法定相続分は2分の1となります。

配偶者乙さんの法定相続分4,000万円(みなし相続財産) × 2分の1 = 2,000万円

以上のように、乙さんは2000万円の財産を相続することができることになります。

しかし、乙さんはすでに被相続人から自宅不動産として2000万円分の贈与を受けています。この場合、この計算上の乙さんの相続分から特別受益に該当する財産の金額を引き算する必要があるのです。

このため、乙さんの実際の相続分は……

配偶者乙さんの実際の相続分2,000万円(計算上の相続分) ― 2,000万円(特別受益の財産額) = 0円

つまり今回の場合、乙さんには相続できる財産がまったくない、ということになるのです。ただし、すでに贈与を受けている不動産は、当然乙さんのものとして手元に残ることになります。

Aさんの相続分

被相続人の子供であるAさんには、法定相続分として相続財産の2分の1の相続が認められています。

このため、Aさんの具体的な相続分は……

子供Aさんの法定相続分4,000万円(みなし相続財産) × 2分の1 = 2,000万円

Aさんは特別受益者には該当しないためこの計算上の財産をそのまま相続することになります

よって、Aさんは2,000万円分の預金を相続することになるのです。このような計算をすることで、相続人間における実際の相続分を公平に計算することが可能となります。

上記事例の問題点

上記のように、相続人の中に特別受益者がいる場合、遺産分割に際しては「持ち戻し計算」が必要となります。相続人間の公平を図るためです。

しかし、この計算方法を徹底した場合には、不具合が発生することがありました。

上記の事例においては、一見相続人間の相続分は公平のように見えます。乙さんは2000万円の不動産をもらっていますし、Aさんは2000万円分の預金を相続しているため、それぞれの取得した財産の価値は平等だからです。

しかしこの場合、乙さんには生活資金として預金をいっさい相続できません。乙さんには確かに居住用不動産は残されていますが、生活していくためには、言うまでもなくお金が必要です。それにもかかわらず、今回の相続では、乙さんは生活資金をまったく相続できないことになってしまうのです。そのような状態では、乙さんは今後生活を送るうえで大きな不安を抱えることになってしまいます。

このような不都合を避けるため、民法は「持ち戻しの免除」という制度を認めています。

持ち戻しは免除が可能!

被相続人から特別受益があった相続人は、相続分の計算において基本的には、その特別受益の持ち戻し計算により相続できる財産を減らされることになります。

しかし、被相続人はこの持ち戻しの免除をすることができるのです。これを「持ち戻しの免除の意思表示」といいます。被相続人は生前、または死亡後には遺言によって、この持ち戻し免除の意思表示を行うことが認められています

被相続人によって持ち戻しの免除の意思表示がなされた場合には、相続分の計算において特別受益した財産を考慮する必要がなくなります。そのため、本来であれば特別受益者として相続分が減らされるはずの相続人も遺産分割に際して不利益を受けることがなくなるのです。

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持ち戻し免除の方法

持ち戻し免除の意思表示は、被相続人によって行われなければなりません。しかし、その方法に関して、法律は特に方式などを定めていません。そのため明示的な意思表示だけでなく、黙示的な言動などでも、持ち戻し免除の意思表示があるとされる場合があります。

持ち戻し免除の意思表示が遺言によって明示的にされている場合、相続人間においてトラブルが発生する可能性は抑えられるでしょう。遺言書という文書によって、その内容が確認できるからです。

しかし免除の意思表示が、被相続人の生前の言動などによってなされたとされる場合には、当事者間でもめる原因となることが多かったのです。

持ち戻し免除制度は認知度が低かった

特別受益に該当する場合であっても、上記のように被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていれば、特別受益者が遺産分割協議において不利益を被ることを防止することができます。民法では、その免除を認めているからです(民法9033項)。

しかし、この「持ち戻しの免除」という制度は認知度が低いためあまり利用されることがありませんでした。このため上記のように、遺産分割協議をする場において、相続人間でトラブルが起こる原因となることがあったのです。

「持ち戻し免除の意思表示の推定」の意義

被相続人が生前または遺言によって居住不動産を配偶者に贈与(遺贈)した場合、従来の扱いでは配偶者は特別受益者として遺産分割において不利な扱いを受けることが一般的でした。相続財産の計算において、持ち戻し計算がされることになるからです。

実際には贈与・遺贈の際、被相続人に持ち戻しの免除の意思があったとしても、それが明示的あるいは黙示的にでも明確にならない以上、持ち戻しの免除がなされることがなかったのです。このため相続において、被相続人の配偶者が過度に不利益を受けるなど、不都合となる事例が多く存在しました

この問題を解決するために新設されたのが、「持ち戻し免除の意思表示の推定」規定です。

参考:「相続する財産が減らされる!特別受益とは何かについてやさしく解説」

「特別受益持ち戻し免除の意思表示の推定」の要件

特別受益持ち戻し免除の意思表示の推定規定が適用されるためには、つぎのような要件を満たしている必要があります。

①特別受益者が配偶者であること

特別受益持ち戻し免除の意思表示の推定規定は、あくまでも被相続人の配偶者を保護するために新設された規定です。このため、この規定によって保護されるのは被相続人の配偶者であることが前提条件となります。

同一の相続において特別受益者として扱われる相続人がいる場合でも、その人が被相続人の配偶者でない場合には、原則どおり遺産分割において「特別受益の持ち戻し計算」が行われることになります。

②結婚期間が20年以上であること

持ち戻し免除の推定規定が適用されるためには、被相続人と配偶者との婚姻期間が20年以上であることが条件とされています。

被相続人の配偶者であっても、結婚期間が20年未満である場合には、この規定は適用されませんので注意が必要となります。

③居住用不動産の贈与・遺贈であること

さらに、この規定が適用されるためには、被相続人から配偶者に贈与・遺贈された財産が居住用の不動産であることが必要です。

居住用の不動産とは、建物だけでなく、その敷地も含みます。このため、自宅としての土地・建物の贈与・遺贈に関しては、この推定規定が適用されることになります。

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持ち戻し免除の推定規定が適用された場合の具体例

それではここで、持ち戻し免除の推定規定が適用された場合の具体例を見てみることにしましょう。

持ち戻し免除の推定規定が適用された場合の事例

相続財産:自宅(2000万円)、預金(2000万円)

相続人:配偶者乙、子供A

上記の事例において、被相続人の生前に配偶者である乙さんが自宅不動産の贈与を受けていたとしましょう。この場合、相続開始時における相続財産は「預金(2000万円)」だけとなります。

前回の事例においては、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていなかったため、乙さんは特別受益者に該当してしまいました。そのため遺産分割に際しては「特別受益の持ち戻し計算」をしなければならず、結果として乙さんは、いっさい金銭を相続することができませんでした。

それでは同一の事例において特別受益の持ち戻し免除の意思表示が推定された場合はどうなるでしょうか?

その場合、具体的には、つぎのような計算をすることになります。

乙さんの相続分

本事例は第一順位の相続であるため、配偶者である乙さんの法定相続分は2分の1となります。

今回の計算では、特別受益となる財産を持ち戻す必要がないため、相続開始時点における財産がそのまま相続財産を計算するためのベースとなります

つまり、相続財産は預金としての2000万円だけとなるため……

配偶者乙さんの相続財産2,000万円(預金) × 2分の1 = 1,000万円
子供Aさんの相続財産2,000万円(預金) × 2分の1 = 1,000万円

以上のように、乙さんは1000万円の財産を相続することができることになります。しかも今回は、生活資金として即利用できる預金という財産を相続できたことになります。

今回は相続では、持ち戻し免除の推定が働くため、遺産分割に際して特別受益分の財産を控除する必要がありません。そのため、乙さんは計算上の相続分である1000万円をそのまま相続することができることになるのです。

今回の事例では乙さんは、居住用不動産はそのまま手元に残しながら、さらに生活資金となる1000万円もの金銭を相続することができるようになるのです。今回の法改正による「持ち戻し免除の推定規定」のおかげで、被相続人の配偶者が保護されることになったわけです。

ちなみにAさんの相続分は、乙さんと同様の計算となるため、預金としての1000万円ということになります。

居住用不動産以外は特別受益となる!

このように被相続人から、その配偶者が贈与などを受けた場合でも、その財産が居住用不動産であるケースでは、一定の場合に特別受益者として扱われることがなくなりました。

しかしこの「持ち戻し免除の意思表示の推定」に関する規定は、あくまでも、あとに残された被相続人の配偶者の「住まい」を保護するという趣旨です。

そのため、たとえ上記の各条件を満たしていたとしても、贈与・遺贈の対象である財産が居住用不動産でない場合には、原則どおり特別受益者として遺産分割の際には「持ち戻し計算」がなされることになります。

「推定」の意味

このように一定の条件を備えた場合には、被相続人から配偶者への贈与・遺贈は特別受益に該当しないとされることになりました。なぜなら、その贈与・遺贈に関しては、被相続人に「持ち戻し免除の意思表示」があったと「推定」されるからです。

それでは、この「推定」とはどういう意味なのでしょうか?

この「推定」とは、持ち戻し免除の意思表示があったことを法律上「推定」するということを意味しています。しかし、「推定」はあくまでも「推定」です。つまり、この「推定」を覆すだけの証拠がある場合には、「推定」が働かなくなることを意味しています。

つまり被相続人の生前の言動や遺言などにより、被相続人において「持ち戻し免除の意思がない」ことが明確であるような場合には、原則どおり贈与や遺贈が特別受益に該当する可能性が出てくるということです。

持ち戻し免除の意思表示の推定規定の施行時期とは

今回ご紹介した特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定に関する規定は、201971日から施行されることになっています。

このため、それ以前に発生した相続に関しては、遺産分割に際しては従来どおり持ち戻し計算などが必要となります。被相続人の配偶者が遺産分割で特別受益者とされないようにするためには、遺言などによって持ち戻し免除の意思表示をしておく必要がありますので、注意してください。

まとめ

今回は、法改正によって新設されることになった「特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定規定」についてご紹介しました。

この特別受益の持ち戻し免除に関する意思表示の推定規定が施行された場合、被相続人の配偶者は遺産分割に際して特別受益者として扱われる可能性が低くなるため、その分相続を有利に進めることができるようになります

ただし、この推定規定が法律上施行されるのは201971日以降とされています。そのため、これより前に発生した相続では、上記のような扱いとはならないことに注意が必要です。

なお、今回行われた相続法の改正では、その他の各制度も改正などの対象となっています。相続ニュースに改正された制度についての記事を紹介しておりますので、相続に関する新知識として、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

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