
「夫が生活費を入れてくれないので困っている」という相談を受けることがあります。
世間では、夫が健康なのに働かなかったり、ギャンブルや浪費などのために家庭に生活費を入れないケースがよくあります。
このような夫の行為は、法律上「悪意の遺棄」となり、立派な離婚原因になります。
夫婦の間に離婚原因(離婚事由)がある場合、仮に夫が離婚を拒否していたとしても裁判することによって離婚が認められる可能性があるのです。
今回は、法律上の離婚原因である「悪意の遺棄」について解説させていただきます。
- 「悪意の遺棄とは何?」
- 「どのような行為が悪意の遺棄になるの?」
- 「悪意の遺棄のために離婚した場合の慰謝料はいくらくらい?」
上記のような疑問にお答えしますので、最後までお読みください。
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悪意の遺棄とは
「悪意の遺棄(あくいのいき)」とは、正当な理由がないのに配偶者の一方が民法で定められている夫婦の同居や扶養義務を果たさないことです。
「悪意の遺棄」の「悪意」とは、夫婦関係の断絶を意図または容認する積極的な意思のことを言います。そして「遺棄」とは、夫婦の相手方を放置することと考えてよいでしょう。
簡単に言うと、配偶者が生活費を入れなかったり、正当な理由もなく同居を拒否しているような場合、悪意の遺棄となります。
民法が定める5つの法定離婚事由(離婚原因)の1つで、配偶者が離婚を拒否している場合でも裁判することによって離婚が認められる可能性があります。
夫婦が果たすべき義務|同居・協力・扶助の義務
法律上、夫婦にはつぎのように各種の義務が定められています。
(同居、協力及び扶助の義務)
第752条
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
つまり、夫婦には同居し、互いに協力・扶助(助け合うこと)する義務があるのです。
配偶者がこれらの各義務に違反している場合、その配偶者は悪意の遺棄をしていると評価されることになります。
悪意の遺棄に該当する具体例
配偶者において、つぎのような行為がある場合には悪意の遺棄に該当する可能性があります。
- 同居を拒否する。一方的に出ていき一人暮らしを始める
- 配偶者が専業主婦(主夫)で収入がなにのに生活費を入れない
- 健康上問題ないのに働こうともせず無職を続けている
- 専業主婦(主夫)なのに家事や育児を放棄している
- DVやモラハラで配偶者を追い出したり家に居づらい状況にする
- 何度も家出を繰り返す
- 実家に行ったきり戻ってこない
- 愛人と同棲している場合
悪意の遺棄に該当しない具体例
悪意の遺棄は、あくまでも、”正当な理由なく”相手配偶者を放置することですので、以下のようなケースでは該当しません。
- DVやモラハラ被害を受けた配偶者が耐え切れなくて家を出た
- 病気や介護のために療養施設等に住む必要が生じた
- 夫婦の一方が単身赴任となった
- 親の介護のために実家に滞在する必要が生じた
- 夫婦喧嘩をして冷却期間のために一時的に実家に戻った
- 婚姻関係が破綻したことで別居するに至った
- 夫婦が互いの関係を冷静に見つめなおす目的の別居
裁判で実際に悪意の遺棄と認定された判例
それではここで、実際に悪意の遺棄を原因として離婚裁判が行われ、最終的に離婚が認められた判例をいくつかご紹介しましょう。
- (1) 夫の暴力が原因で妻が別居したケース
- (2)身障者の妻を夫が放置したケース
- (3)妻と子供を見捨てて家を出て戻らなかったケース
- (4)突然行方不明になったケース
(1)夫の暴力が原因で妻が別居したケース
夫の暴力を原因として、妻が子供とともに実家に戻り別居したことから離婚訴訟となった事例です。
悪意の遺棄による離婚を主張する妻に対しては夫からも離婚の請求が行われましたが、裁判所は夫の側に悪意の遺棄を認め、妻の主張する離婚が認定されました(浦和地裁昭和59年9月19日)。
(2)身障者の妻を夫が放置したケース
脳血栓が原因で半身不随になってしまった妻に対して夫が十分な看護をせず、突然離婚を切り出して家を出ていってしまったケースです。
その後、夫は長期間にわたり別居を続け、生活費をまったく送らなかったため裁判となりました。
裁判所は、夫の行為を悪意の遺棄に該当すると判断しました。(浦和地方裁判所昭和59年9月19日判決)
(3)妻と子供を見捨てて家を出て戻らなかったケース
妻と生まれて間もない子供を放置し家を出たままの夫に対して、妻が夫の不貞行為と悪意の遺棄を理由として慰謝料を請求したケースでは、悪意の遺棄が認定され300万円の慰謝料の支払いが夫に命じられました(東京地裁平成21年4月27日)。
(4)突然行方不明になったケース
夫が突然家を飛び出し行方不明となり、生活費も入れなくなってしまった事例が争われたケースにおいて裁判所は、正当な理由なく妻との同居義務及び協力扶助義務を尽くさないことが明らかであるとして悪意の遺棄が認定されました(名古屋地判昭和49年10月1日判決)。
悪意の遺棄に該当しなくても離婚できることがある
すでにご紹介したように悪意の遺棄として離婚が認められるためには、配偶者において積極的に婚姻関係を破たんさせる意思、もしくはそうなっても仕方がないと容認する意思のもとに夫婦間に課せられる同居・協力・扶助の義務に違反する行為をしている必要があります。
つまり、配偶者に対して悪意の遺棄が認められるためには、ある程度厳格な要件が必要です。
しかし、悪意の遺棄までは認められない事例であっても夫婦間の同居・協力・扶助の義務に違反する行為が認められる場合には、法定離婚事由である「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当して離婚が認められる可能性があります。
悪期の遺棄を原因とした慰謝料請求について
悪意の遺棄は法定離婚自由に該当するため離婚請求できることはお伝えしましたが、不法行為による精神的傷の賠償、いわゆる慰謝料請求をすることもできます(民法709条・710条)。
ここでは、慰謝料相場や、準備すべき証拠、請求方法、注意点などについて紹介します。
悪意の遺棄による慰謝料の相場は?
配偶者において悪意の遺棄が認められる場合の慰謝料は、50万円から100万円くらいまでが一般的な相場です。
しかし、配偶者の行為が悪質である場合には、数百万円以上の慰謝料が認められる可能性もあります。
実際、先ほどご紹介した事例(不貞行為をしたうえに、妻と生まれたばかりの子供を残して夫が家出をしたケース)では、慰謝料として300万円もの支払いが命じられています。
慰謝料額が高くなる要因
悪意の遺棄をされた場合に以下のような事情があれば慰謝料額が高くなる傾向があります。
- 生活費の不払いや別居・家出期間が長い
- 婚姻期間が長い
- 暴力やモラハラで被害者が別居せざるを得なかった
- 相手が不倫相手と同居するために家を出た
- 夫婦の間に子供がいる
- 相手の年収が高い
慰謝料請求のために集めておくべき証拠
裁判で悪意の遺棄を認めてもらい、より多くの慰謝料をもらうためには、次のような各種の証拠を集めておくことをおすすめします。
- (1)別居を示すための、相手の住民票(または戸籍の附票)や別居先の賃貸借契約書
- (2)別居に正当な理由がないことを示すための、一方的に別居を告知するメール・LINE・録音データ
- (3)生活費を入れないことを示すための、自分でつけた家計簿や入金記録のない通帳のコピー
- (4)協力・扶助義務違反を証する資料として、相手の生活態度を記録した画像・動画・日記・メモ
など
有力な証拠が多ければ多いほど裁判は有利に進めることができ、結果として離婚や、より高額の慰謝料が認められることになります。
慰謝料の請求方法
夫婦の義務も果たせないような相手が話し合いで慰謝料を支払うケースは少ないため、まずは内容証明郵便で慰謝料を請求するのが一般的です。
ただし内容証明に法的拘束力はないため、相手が任意交渉に応じないようであれば訴訟を起こす必要があります。
また、離婚することを前提に考えているのであれば、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、その協議の中で調停委員を交えて慰謝料についての話し合いをすることもできます。もし相手が慰謝料額につき合意し調書化することができれば相手に支払い義務が生じます。
慰謝料請求の時効に注意
なお、慰謝料請求には、「損害と加害者を知った時から3年」という時効が設けられています(民法724条)。
加害者(配偶者)に対し、悪意の遺棄が開始された時から3年以内に慰謝料請求しないと請求権が消滅してしまいます。
ただし、例えば悪意の遺棄をされている状況が5年続いている場合で、慰謝料請求せずに3年たったようなケースでは、残りの2年分の請求は可能です。
まとめ
今回は、法定離婚事由の1つである「悪意の遺棄」に該当する行為などについて解説させていただきました。
配偶者に悪意の遺棄に該当する行為がある場合、相手が離婚を拒否していたとしても、裁判することによって離婚が認められる可能性があります。
日本では、離婚の圧倒的多数が当事者の話し合いによって成立しています(協議離婚)。
しかし相手が離婚に同意してくれない場合、最終的には離婚を求めて裁判を起こすしか方法がありません。
もし、もはや配偶者に対して愛情を持つことができなくなってしまっているのなら、前向きに離婚を検討する必要があります。
また、配偶者に悪意の遺棄が認められる場合には、離婚と同時に慰謝料の請求をすることも可能です。
もし離婚問題でお悩みであれば、なるべく早く弁護士に相談し、今後の対策などのアドバイスを受けるべきです。
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